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新しいものが出てきたというよりは,今まで言われていたいたメカニズムがようやく実験的に検証できたというところですね.
元々,10年ちょっと前にUGe2系で強磁性と超伝導の共存が見つかって以来,「多分こいつはスピントリプレット超伝導(スピンが同じ向きの電子2つがペアになって,全体としてはスピンS=1のトリプレット状態となっている超伝導)で,その起源として強磁性揺らぎを介した引力が効いているんだろう」という推測が立っていました.格子振動を介した通常の超伝導機構では,その引力を最大限に利用するためにスピンシングレット超伝導(↑の電子と↓の電子がペアになって,全体ではスピンがゼロの一重項状態になっている)が安定となります.逆に,トリプレットであれば格子振動以外のものが引力の起源だと推定されます.
トリプレット超伝導の例で言えば,これまでにも例えばSr2RuO4だとかUPt3での反強磁性スピン揺らぎを引力として利用したトリプレット超伝導なども見つかっています.そういう意味では,「今まで知られている超伝導の発現の仕組みとは全く異なる新しいもの」とまで書いちゃうプレスリリースは言い過ぎなんじゃないかと思わなくもありませんが.#強磁性揺らぎと反強磁性揺らぎでちょっと違うと言えば違いますが,似たようなものです.
なんにせよ,長いこと「まあ多分そうだろう」と言われていながら決定的な証拠までは行っていなかった系で,ついにしっかりした実験結果が出てきたことは喜ばしいことですね.
ついでに.「磁場に対して頑丈なより実用的な超伝導物質」云々ですが,一重項超伝導だと↑-↓の電子がペアになっているので,磁場をかけると一方の電子のエネルギーが上がってもう一方の電子のエネルギーが下がります.そもそもエネルギーがずれてるもの同士ではペアを組みにくくなりますし,最終的にはクーパー対を作る安定化に対しペアを壊してでも磁場に対して安定なスピンに揃ってしまう効果が勝つためクーパー対が破壊され超伝導が壊れます(パウリ限界).トリプレット超伝導ではこういった事は関係ないのでもっと高い磁場まで安定でも良いのですが,実際には別の効果(既知のものもあれば,いまだに良く理由が分からないものもある)によって結局超伝導状態は壊れます.磁気揺らぎを駆動力にする既知のスピントリプレット超伝導体はそもそも転移温度が非常に低い事とも合わせ,まあ少なくとも当分の間は,磁場に対して強い超伝導体がこういった研究から出てくるのは難しいでしょう.#ずっと未来ならあり得ない話ではなくなります.
ああ、そういえば「物質の発見」でも「現象の発見」でも「理論の提唱」でもなく、「実験による検証に成功」なんですよね、このニュース。新理論の提唱から実験による検証までワンセットになった話って訳でも無いのに「今まで知られている超伝導の発現の仕組みとは全く異なる新しいもの」は確かに変かも。「今まで知られている」というより「今までに検証の得られていた」と読むべきなのかな。
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身近な人の偉大さは半減する -- あるアレゲ人
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新しいものが出てきたというよりは,今まで言われていたいたメカニズムがようやく実験的に検証できたというところですね.
元々,10年ちょっと前にUGe2系で強磁性と超伝導の共存が見つかって以来,「多分こいつはスピントリプレット超伝導(スピンが同じ向きの電子2つがペアになって,全体としてはスピンS=1のトリプレット状態となっている超伝導)で,その起源として強磁性揺らぎを介した引力が効いているんだろう」という推測が立っていました.
格子振動を介した通常の超伝導機構では,その引力を最大限に利用するためにスピンシングレット超伝導(↑の電子と↓の電子がペアになって,全体ではスピンがゼロの一重項状態になっている)が安定となります.逆に,トリプレットであれば格子振動以外のものが引力の起源だと推定されます.
トリプレット超伝導の例で言えば,これまでにも例えばSr2RuO4だとかUPt3での反強磁性スピン揺らぎを引力として利用したトリプレット超伝導なども見つかっています.そういう意味では,「今まで知られている超伝導の発現の仕組みとは全く異なる新しいもの」とまで書いちゃうプレスリリースは言い過ぎなんじゃないかと思わなくもありませんが.
#強磁性揺らぎと反強磁性揺らぎでちょっと違うと言えば違いますが,似たようなものです.
なんにせよ,長いこと「まあ多分そうだろう」と言われていながら決定的な証拠までは行っていなかった系で,ついにしっかりした実験結果が出てきたことは喜ばしいことですね.
ついでに.
「磁場に対して頑丈なより実用的な超伝導物質」云々ですが,一重項超伝導だと↑-↓の電子がペアになっているので,磁場をかけると一方の電子のエネルギーが上がってもう一方の電子のエネルギーが下がります.そもそもエネルギーがずれてるもの同士ではペアを組みにくくなりますし,最終的にはクーパー対を作る安定化に対しペアを壊してでも磁場に対して安定なスピンに揃ってしまう効果が勝つためクーパー対が破壊され超伝導が壊れます(パウリ限界).
トリプレット超伝導ではこういった事は関係ないのでもっと高い磁場まで安定でも良いのですが,実際には別の効果(既知のものもあれば,いまだに良く理由が分からないものもある)によって結局超伝導状態は壊れます.
磁気揺らぎを駆動力にする既知のスピントリプレット超伝導体はそもそも転移温度が非常に低い事とも合わせ,まあ少なくとも当分の間は,磁場に対して強い超伝導体がこういった研究から出てくるのは難しいでしょう.
#ずっと未来ならあり得ない話ではなくなります.
Re: (スコア:0)
ああ、そういえば「物質の発見」でも「現象の発見」でも「理論の提唱」でもなく、「実験による検証に成功」なんですよね、このニュース。
新理論の提唱から実験による検証までワンセットになった話って訳でも無いのに「今まで知られている超伝導の発現の仕組みとは全く異なる新しいもの」は確かに変かも。
「今まで知られている」というより「今までに検証の得られていた」と読むべきなのかな。