ところがMRSAは、この旧来型とは全く別の耐性機構を獲得しています。ペニシリン系の薬剤は、細菌の細胞壁の合成酵素の一つであるPBP2(penicillin-binding protein 2:当初はペニシリン結合蛋白質として同定された。その本体は、細菌細胞壁のペンタペプチド鎖を結合するためのトランスペプチダーゼという酵素)と結合し、その機能を阻害することで細胞壁の合成を止め、細菌の増殖を阻害するとともに、細胞壁を脆くして殺菌するという働きを持っています。これに対して、MRSAはPBP2以外に、PBP2'という酵素を獲得したもので、このPBP2'にはペニシリン系の薬剤は結合しません(弱くは結合するけど、十分に阻害できない)。このため、MRSAはメチシリンのみならず、従来のβラクタム系のすべてに対して耐性を発揮する多剤耐性菌です。
全然 (スコア:1, フレームのもと)
Re:全然 (スコア:3, 参考になる)
現状、MRSAの治療にはバンコマイシンなどが用いられていますが、VREやVRSA/VISAなど、既にバンコマイシン耐性を獲得した細菌も出現してます。こういった細菌による感染症が起きた場合、「治療薬の選択肢がない(限られる)」というのが問題です。抗菌薬の計画的投与はこういった新規の耐性獲得菌の出現を十分に遅らせるのには有効ですが、結局のところは時間の問題でしかない、という考え方もできるわけです。その間に、新しいメカニズムの薬剤を開発して「選択肢」を増やしておくということも、医学上重要なんです。そうすることで、細菌が耐性を獲得する際に「的を絞らせない」効果も狙えますから。
で、この新薬ですが、こういう論文 [nih.gov]が出ており、これまで知られている抗菌薬とは全く作用機作が異なるもののようです。"photosensitizer"と呼ばれるものの一種ですが、この分子はポルフィリン骨格を持っていて、光を当てることによってラジカル(活性酸素)を産生し、その働きによって殺菌する、というのが、その作用メカニズムだろうと述べられています。言ってみれば、光を当てることで働くオキシドール(過酸化水素水)のようなものです。ただし、このような機構のものなので、必ずしも細菌特異的な毒性を発揮するとは言えません。また、体表面の殺菌消毒には有効でしょうが、体内で働くかどうか、また内服しても有効かどうか(内服した薬が体表面に回り、光が当たって殺菌作用を発揮するか/それが感染巣で作用するか)は疑問です。基本的には塗抹した後で光を当てて…ということになるかと。これらを併せて考えると、いわゆる「抗生物質」の代替としてどこまで使えるかは疑問だったりします。
Re:全然 (スコア:2, 興味深い)
Best regards, でぃーすけ
Re:全然 (スコア:5, 参考になる)
で、まぁMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)についてですが、これは基本的にはペニシリン系とセフェム系(併せてβラクタム系)は全部効かない耐性菌だ、と考えていただければいいです。それ以外の系統の薬剤にも同時に耐性を持ってる場合も多々あります。
(本来の黄色ブドウ球菌)←ペニシリン/セフェム←(ペニシリナーゼ/セファロスポリナーゼ/βラクタマーゼ産生黄色ブドウ球菌)←メチシリン(=βラクタマーゼ抵抗性ペニシリン)←MRSA
という流れです。ペニシリン系に対して耐性を獲得した菌は、最初はペニシリンを分解する酵素(ペニシリナーゼ)を分泌するタイプのものでした。これに対してメチシリンは、この酵素の基質にならない(=分解されない)ように化学修飾されたものです。また、これ以外にもこのペニシリナーゼに対する阻害剤をペニシリン系の薬剤と同時に投与する合剤も開発されてます。これらの薬剤の開発によって、旧来のペニシリン耐性菌に対する治療が可能になったわけです。
ところがMRSAは、この旧来型とは全く別の耐性機構を獲得しています。ペニシリン系の薬剤は、細菌の細胞壁の合成酵素の一つであるPBP2(penicillin-binding protein 2:当初はペニシリン結合蛋白質として同定された。その本体は、細菌細胞壁のペンタペプチド鎖を結合するためのトランスペプチダーゼという酵素)と結合し、その機能を阻害することで細胞壁の合成を止め、細菌の増殖を阻害するとともに、細胞壁を脆くして殺菌するという働きを持っています。これに対して、MRSAはPBP2以外に、PBP2'という酵素を獲得したもので、このPBP2'にはペニシリン系の薬剤は結合しません(弱くは結合するけど、十分に阻害できない)。このため、MRSAはメチシリンのみならず、従来のβラクタム系のすべてに対して耐性を発揮する多剤耐性菌です。