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東大の研究チーム、「人工細胞」の作成に成功」記事へのコメント

  • 報道記事なんかもそうなんですが,今回の論文の一番重要な部分の説明が抜けてるんですよね.

    この手の模擬原始細胞(model protocell)の研究の歴史は長く,様々なものが作られてきました.
    「細胞」としての要件はまあいろいろあるのですが,

    (1) 情報を運ぶ主体の増幅
    (2)外界と区別する膜の増幅と分裂

    の2点が重要になってきます.
    1は地球上の生物で言えばDNA(ウィルスなどではRNA)の複製に当たります.2の方は細胞膜が増えて二つ以上に千切れることで数を増やす過程です.生物の場合,これらは同時に起こります(DNAが複製され,それが分配され細胞が分裂する).

    さて,今までの模擬細胞では例えば,

    ・人工細胞膜内でDNAなどの増幅を行う系(1を満たす)
    ・溶液中に細胞膜の前駆体を溶かしておくと,細胞内の触媒で分解され細胞膜を作る物質に変換,細胞膜がどんどん増え,勝手に千切れて増える系(2を満たす)

    などが作られています.ですがこれらの系では,1だけとか2だけが起こったり,1と2が別個に勝手に起こっているだけです.

    では今回の系,何がポイントになるかというと,DNAの増幅が細胞の分裂を促進する,つまり1が2と(多少)連動している,という点です.
    細胞膜の増殖自体は,溶液中の前駆体をベシクル(人工膜分子が,細胞に似た二重膜の球体を作っているもの)内に存在する触媒が分解して膜分子に変換し増えていく,と言う従来からあるものと同じです.
    また情報担体の増幅も,人工細胞内のDNAポリメラーゼが原料を繋げてDNAを複製していくだけです.
    さて,今回の系では,細胞膜を作っている分子内にカチオン部分が存在します.複製されたDNAが増えてくると,DNAの負に帯電した部分がこの膜分子にくっつき,その二重膜構造を崩してフレキシブルにします.すると,元々は大きな球体だったベシクルが,そのゆるんだ部分から変形してぽこっと一部が膨らんだ形となり,そのうち二つの球体へと分裂します.つまり,DNAの増幅が,細胞数の増幅をアシストするわけです.
    これにより,単にベシクルの数が増えるだけではなく,また単に情報を担う物質が増えるだけでもなく,

    ベシクルが巨大化する

    内部では情報を担う分子の数が増える

    情報を担う分子が十分増えると,ベシクルが分裂する(正確には,分裂しやすくなる)

    全体が増殖する

    という,情報複製と細胞複製が連動して起きる,という事になるわけです.
    #まあ,現状では,アシスト程度なんでベシクルだけでも分裂していくんですが.

    人工生命なんぞへはまだまだ先が長いわけですが,今までよりまた一歩進んだよ,と.

私は悩みをリストアップし始めたが、そのあまりの長さにいやけがさし、何も考えないことにした。-- Robert C. Pike

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