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タレコミ人です。Associated Pressの下の方で「放射線」云々の紹介をチラッとしていた部分を誤解してしまったようです。申し訳ありません。
修行してでなおします。
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皆さんもソースを読むときに、行と行の間を読むような気持ちで見てほしい -- あるハッカー
全然違う (スコア:5, 参考になる)
#本家にもそんなこと全く書かれてないというのに。
もとの論文は、NEJMに出たこの論文 [nejm.org]で、行われてるのはタレコミにあるのとはまったく別の実験です。今回の実験でいう「ワクチン」というのは、弱毒化した病原体ではなく、クロロキン感受性のある(=クロロキン耐性でない)病原性のマラリア原虫(NF54株)そのものを用いてます。(1)「ワクチン群」としてはこのマラリア原虫を保菌した蚊に、(2)「対照群」としては保菌していない蚊に、それぞれクロロキンを投与している被験者を刺させています。その後、クロロキン投与を中断し保菌蚊に刺させて、「クロロキンの予防投与+クロロキン感受性マラリア」の処置を行ったワクチン群で、免疫を獲得していることを確認しているものです。
じゃあ「放射線」云々というのは何かというと、これはもう40年くらい前に [nih.gov]すでに報告されてることです。マラリア原虫は、特殊な生活環 [kyoto-phu.ac.jp]を持っており、蚊によってヒトの血液中に入り込んだ後、まず肝細胞に入り込んで細胞内増殖し、その後、赤血球の中で細胞内増殖する、というサイクルを繰り返します。このとき赤血球を壊してしまうために貧血が起こりますし、このライフサイクルの周期に従って、規則的な(48時間とか72時間とか:ただし一部は不規則)高熱が出ます。保菌蚊に比較的低線量のX線照射を行った場合(高線量では病原体自体が死んでしまいますが)、マラリア原虫自体は生きてるのだけど、増殖はできないような状態にすることが可能です。この場合、不活化したマラリア原虫は肝細胞の中に侵入しますが、そこから体内で増えることはできないため、マラリアを発症することはなく、免疫だけが獲得できる、ということです。
ただしこのX線照射による方法の最大の問題点は、これで十分な免疫を得ようと思ったら、この蚊に1000回くらい刺されなければならない、ということだそうで。今回の方法は、より病原性の高いマラリア原虫(しかもクロロキンで完全に押さえ込めるもの)ならば、数回の接種でも免疫が可能だということを示したことになります。
もちろん、これまでには様々な別のやり方も模索されてきてるのですが、(1)蚊を使わない接種方法では弱毒化したマラリア原虫が上手く感染できない、(2)弱毒生ワクチン以外の、成分ワクチン(マラリア原虫の抗原タンパク質)では十分な免疫が得られない、という感じで、有効なワクチンはまだ開発されてないというのが現状です。
マラリアで成分ワクチンが上手く出来ない理由としては、マラリア原虫の遺伝子多型 [wanonaka.jp]の存在などが指摘されています。一般論として、生きた病原体を用いる生ワクチンでは、一つの抗原タンパクを標的とする成分ワクチンと比べて、抗原になる成分の種類が多くなるため、遺伝子多型の問題は少なくなる傾向があります。このあたり、今回の実験ではNF54という一株しか使っていないので、他の多型のマラリア原虫にどの程度有効なのかを検討することが今後の課題になるかと思います。また、ご存知のようにクロロキン耐性を獲得しているマラリア原虫は世界的に増えていることもあり、今回の方法を実用化する際には、新たな耐性の獲得などにも十分配慮しながら進める必要があると思われます。
Re:全然違う (スコア:1)
タレコミ人です。Associated Pressの下の方で「放射線」云々の紹介をチラッとしていた部分を誤解してしまったようです。申し訳ありません。
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