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元記事の関連記事にはTests in Leicester show silver helps kill bacteria [bbc.co.uk]とあるのだが、結局この新しい抗菌剤がどんな原理で抗菌作用を発揮するか理解できなかった。銀を使っているならあんまり低コストにならないだろうし、他の金属イオンなのだろうか。
>銀を使っているなら
銀は使っていません.殺菌成分は「長鎖アルキル四級アンモニウムカチオン」です.まず,四級アンモニウムカチオンとはどんなものかというと,アンモニウムイオン(NH4 +)の水素原子を4つともアルキル基(炭化水素.直鎖なら,CH3-CH2-CH2-...-CH2-という構造)で置き換えたもので,有機溶媒に良く溶ける代表的なイオンとなります.アルキル基が長いものが長鎖アルキルと呼ばれ,疎水性(炭化水素は非常に疎水性が高い)であり逆に油と良く混ざるため,洗剤などの界面活性剤の分子の一部がこういった形をしています(その部分で油汚れにくっつき,分子の逆側の親水性の部分で水にくっつくことで油汚れを水に溶かし出す).
この手の分子が殺菌作用を持つこと自体はそこそこ前から知られており,長いこと様々な抗菌加工用に使用されています.つまり,殺菌成分自体は別に新発見というわけではありません.その殺菌作用のメカニズムに関しては判明していないのですが,作業仮説としては,長鎖アルキル部分が細胞膜(脂質二重膜であり,親油性部分が膜の内側に存在)の内部に溶け込んで膜構造を破壊する(有機溶剤かけると細胞が溶けるようなもんですね)ことと,四級アンモニウム(カチオン)と細胞膜の分子のアニオンとの間に静電引力が働き,構造を破壊することが効いている,と言われているそうです.#と,ここまで書いて検索したら引っかかった花王による解説 [kao.co.jp]
このように,四級アンモニウム塩の殺菌作用は広く知られているため,これでポリマー表面などを修飾して殺菌作用を持たせよう,という試みはいくつも行われています.例えば繊維の表面に化学的に反応しやすいリンカーをまず付けて,そこに四級アンモニウム塩を結合する,などです.この場合,ポリマー側を化学修飾しないといけませんので手間がかかりますし,またポリマー自体が化学修飾過程で変質する場合や,逆にポリエチレンなどの反応性の非常に低いポリマーの修飾がほとんど出来ない,と言った問題があります.それを解決するために,強い紫外光でラジカルを作り,ポリマー表面のC-H結合(ほぼ全てのポリマーに存在するが,反応性は非常に低い)に無理矢理結合させる,と言う方法も開発されています.
今回の報告は,この後者の「ラジカルで無理矢理C-H結合に抗菌剤を結合する」のだけれども,もっとマイルドな条件で行く,と言うものです.具体的な分子としては,長鎖アルキル型の四級アンモニウムカチオンの先(4本のアルキル鎖のうち,一本の先端)に,ベンゾフェノンという分子を付けています.ベンゾフェノンは,有機合成をやった方なら誰でも知っているような分子で,非常に容易にラジカルを生成します(それを使って,溶媒を乾燥する際のインジケーターに使う.水や酸素が無くなるとラジカルが生き残って色が付く).この時,ベンゾフェノンは非常にマイルドな条件(波長の長めの紫外線)でラジカルを生成できるため,ポリマー表面に付着させるときにポリマー本体や,殺菌部分などへのダメージが抑えられます.で,生成したラジカルがポリマー表面にあるC-H結合と反応することで,ポリマーへ殺菌分子が固定される,と.
そんなわけで,今回の論文の売りは,「マイルドな条件でポリマー表面に殺菌分子を固定できる」という点です.また,ラジカルを使うことでC-H結合に挿入できるので,反応性の非常に低い素材にも適用できるよ,と.
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一つのことを行い、またそれをうまくやるプログラムを書け -- Malcolm Douglas McIlroy
銀イオンなのか? (スコア:0)
元記事の関連記事にはTests in Leicester show silver helps kill bacteria [bbc.co.uk]とあるのだが、結局この新しい抗菌剤がどんな原理で抗菌作用を発揮するか理解できなかった。銀を使っているならあんまり低コストにならないだろうし、他の金属イオンなのだろうか。
簡単な説明 (スコア:5, 参考になる)
>銀を使っているなら
銀は使っていません.殺菌成分は「長鎖アルキル四級アンモニウムカチオン」です.
まず,四級アンモニウムカチオンとはどんなものかというと,アンモニウムイオン(NH4 +)の水素原子を4つともアルキル基(炭化水素.直鎖なら,CH3-CH2-CH2-...-CH2-という構造)で置き換えたもので,有機溶媒に良く溶ける代表的なイオンとなります.
アルキル基が長いものが長鎖アルキルと呼ばれ,疎水性(炭化水素は非常に疎水性が高い)であり逆に油と良く混ざるため,洗剤などの界面活性剤の分子の一部がこういった形をしています(その部分で油汚れにくっつき,分子の逆側の親水性の部分で水にくっつくことで油汚れを水に溶かし出す).
この手の分子が殺菌作用を持つこと自体はそこそこ前から知られており,長いこと様々な抗菌加工用に使用されています.つまり,殺菌成分自体は別に新発見というわけではありません.
その殺菌作用のメカニズムに関しては判明していないのですが,作業仮説としては,長鎖アルキル部分が細胞膜(脂質二重膜であり,親油性部分が膜の内側に存在)の内部に溶け込んで膜構造を破壊する(有機溶剤かけると細胞が溶けるようなもんですね)ことと,四級アンモニウム(カチオン)と細胞膜の分子のアニオンとの間に静電引力が働き,構造を破壊することが効いている,と言われているそうです.
#と,ここまで書いて検索したら引っかかった花王による解説 [kao.co.jp]
このように,四級アンモニウム塩の殺菌作用は広く知られているため,これでポリマー表面などを修飾して殺菌作用を持たせよう,という試みはいくつも行われています.例えば繊維の表面に化学的に反応しやすいリンカーをまず付けて,そこに四級アンモニウム塩を結合する,などです.この場合,ポリマー側を化学修飾しないといけませんので手間がかかりますし,またポリマー自体が化学修飾過程で変質する場合や,逆にポリエチレンなどの反応性の非常に低いポリマーの修飾がほとんど出来ない,と言った問題があります.
それを解決するために,強い紫外光でラジカルを作り,ポリマー表面のC-H結合(ほぼ全てのポリマーに存在するが,反応性は非常に低い)に無理矢理結合させる,と言う方法も開発されています.
今回の報告は,この後者の「ラジカルで無理矢理C-H結合に抗菌剤を結合する」のだけれども,もっとマイルドな条件で行く,と言うものです.具体的な分子としては,長鎖アルキル型の四級アンモニウムカチオンの先(4本のアルキル鎖のうち,一本の先端)に,ベンゾフェノンという分子を付けています.ベンゾフェノンは,有機合成をやった方なら誰でも知っているような分子で,非常に容易にラジカルを生成します(それを使って,溶媒を乾燥する際のインジケーターに使う.水や酸素が無くなるとラジカルが生き残って色が付く).この時,ベンゾフェノンは非常にマイルドな条件(波長の長めの紫外線)でラジカルを生成できるため,ポリマー表面に付着させるときにポリマー本体や,殺菌部分などへのダメージが抑えられます.
で,生成したラジカルがポリマー表面にあるC-H結合と反応することで,ポリマーへ殺菌分子が固定される,と.
そんなわけで,今回の論文の売りは,「マイルドな条件でポリマー表面に殺菌分子を固定できる」という点です.また,ラジカルを使うことでC-H結合に挿入できるので,反応性の非常に低い素材にも適用できるよ,と.
Re: (スコア:0)
逆性石けんは、消毒薬の中では低水準 [yoshida-pharm.com]に分類され、細菌芽胞や結核菌には無効で、ウイルスや真菌に対する作用は限定的です。