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もともと,磁性流体は微細な強磁性ナノ粒子を分散させた溶液です.個々のナノ粒子は磁石なのですが,小さいため自由に回転してしまい,外から見ると磁化が保持されません.外部から磁場を印可するとナノ粒子の向きが揃えられ磁化が生じますが,磁場が消えると熱によるランダムな回転で磁化が(全体としては)消えます.
磁場が無い状態でも磁化を維持させるにはどうしたらよいかというと,ナノ粒子の回転を抑制する必要があります.一つは低温にして熱運動を減らす(極論すれば,凍らす)というものですが,これですとそもそもの液体としての特性が無くなるためうまくありません.そこで今回用いられたのが,「ナノ粒子同士の摩擦を増やして回りにくくする」という方法です.
まずは水滴中に,表面を小さなアニオン性界面活性剤でコーティングした磁性ナノ粒子を分散させます.(イオン性界面活性剤同士の反発により磁石同士がくっつきにくくなり,分散します)この水滴をオイル中に入れると,いわゆる磁性流体になります.ここで,油の中にまた別の,カチオン性の界面活性剤を投入します.すると水と油の界面にこの界面活性剤が集まり,さらに界面付近にいた磁性ナノ粒子の表面にも張り付きます.この張り付いた界面活性剤により磁性ナノ粒子表面の電荷が打ち消され,さらにこの界面活性剤を張り付けて安定化しようと無数の磁性ナノ粒子が寄ってくるため,ナノ粒子間の距離が縮みます.結果として,水滴表面にナノ粒子が集合し,密度が高くなって互いに束縛するためナノ粒子の回転が抑制されるわけです.
まとめると
もともとの磁性流体:水滴の内部に均一に磁性粒子が分散.磁性粒子同士が離れており,熱で回転できるので磁化の向きを保持できない.今回の系:水滴表面(油との界面)に多数の磁性ナノ粒子が集結.粒子同士が引っ掛かりあうことで回転が抑制され,一度磁場でナノ粒子の向きを揃えるとその向きが維持されやすい.
という感じです.全体としては液滴で,その表面に強磁性材料の柔らかい殻を張り付けたような構造ですね.「殻」の部分も実際には(互いにある程度束縛しあった)小さな粒子の集合体なんで,液滴全体の形を後から変えることもでき,液体としての特徴も維持されている,と.
相変わらずめっちゃわかりやすい説明でありがたい限り。
それはそれとして、液滴表面に磁性粒子が密集して脆い殻のような磁性体になるということは、液体として形状の変化が起きると簡単に磁性が消えそうな予感。磁石としては欠点だけど……実は電子ペーパーみたいな方向での応用の可能性でもあるのかな。
>液体として形状の変化が起きると簡単に磁性が消えそうな予感。
一応著者らは,球形のやつを磁化した後に,ストロー的なものに吸い込んでちょっと長いカプセル状(風邪薬のコンタックとかああいう形)に変形させても磁石としての異方的な性質が残っていることを示したりはしています.ただまあ,大幅に形を変えちゃうような変形だと磁化を残すのは難しいかもしれませんね.
多少ではあるけど耐えるんだ!でも磁力じゃなく異方的な性質が残るって事は構造はかなり壊れてしまうのかな。表面積が増減すると表面に作った構造はそりゃ壊れるか……
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あと、僕は馬鹿なことをするのは嫌いですよ (わざとやるとき以外は)。-- Larry Wall
仕組み (スコア:5, 参考になる)
もともと,磁性流体は微細な強磁性ナノ粒子を分散させた溶液です.
個々のナノ粒子は磁石なのですが,小さいため自由に回転してしまい,外から見ると磁化が保持されません.
外部から磁場を印可するとナノ粒子の向きが揃えられ磁化が生じますが,磁場が消えると熱によるランダムな回転で磁化が(全体としては)消えます.
磁場が無い状態でも磁化を維持させるにはどうしたらよいかというと,ナノ粒子の回転を抑制する必要があります.
一つは低温にして熱運動を減らす(極論すれば,凍らす)というものですが,これですとそもそもの液体としての特性が無くなるためうまくありません.
そこで今回用いられたのが,「ナノ粒子同士の摩擦を増やして回りにくくする」という方法です.
まずは水滴中に,表面を小さなアニオン性界面活性剤でコーティングした磁性ナノ粒子を分散させます.
(イオン性界面活性剤同士の反発により磁石同士がくっつきにくくなり,分散します)
この水滴をオイル中に入れると,いわゆる磁性流体になります.
ここで,油の中にまた別の,カチオン性の界面活性剤を投入します.
すると水と油の界面にこの界面活性剤が集まり,さらに界面付近にいた磁性ナノ粒子の表面にも張り付きます.
この張り付いた界面活性剤により磁性ナノ粒子表面の電荷が打ち消され,さらにこの界面活性剤を張り付けて安定化しようと無数の磁性ナノ粒子が寄ってくるため,ナノ粒子間の距離が縮みます.
結果として,水滴表面にナノ粒子が集合し,密度が高くなって互いに束縛するためナノ粒子の回転が抑制されるわけです.
まとめると
もともとの磁性流体:水滴の内部に均一に磁性粒子が分散.磁性粒子同士が離れており,熱で回転できるので磁化の向きを保持できない.
今回の系:水滴表面(油との界面)に多数の磁性ナノ粒子が集結.粒子同士が引っ掛かりあうことで回転が抑制され,一度磁場でナノ粒子の向きを揃えるとその向きが維持されやすい.
という感じです.
全体としては液滴で,その表面に強磁性材料の柔らかい殻を張り付けたような構造ですね.
「殻」の部分も実際には(互いにある程度束縛しあった)小さな粒子の集合体なんで,液滴全体の形を後から変えることもでき,液体としての特徴も維持されている,と.
Re: (スコア:0)
相変わらずめっちゃわかりやすい説明でありがたい限り。
それはそれとして、
液滴表面に磁性粒子が密集して脆い殻のような磁性体になるということは、
液体として形状の変化が起きると簡単に磁性が消えそうな予感。
磁石としては欠点だけど……
実は電子ペーパーみたいな方向での応用の可能性でもあるのかな。
Re:仕組み (スコア:3, 興味深い)
>液体として形状の変化が起きると簡単に磁性が消えそうな予感。
一応著者らは,球形のやつを磁化した後に,ストロー的なものに吸い込んでちょっと長いカプセル状(風邪薬のコンタックとかああいう形)に変形させても磁石としての異方的な性質が残っていることを示したりはしています.
ただまあ,大幅に形を変えちゃうような変形だと磁化を残すのは難しいかもしれませんね.
Re: (スコア:0)
多少ではあるけど耐えるんだ!
でも磁力じゃなく異方的な性質が残るって事は構造はかなり壊れてしまうのかな。
表面積が増減すると表面に作った構造はそりゃ壊れるか……