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292021 story

「100 億分の 1 秒間だけ現れる新しい物質構造」が検出される 18

ストーリー by reo
ディラックの海よりは厚い 部門より

ある Anonymous Coward 曰く、

東京工業大学の腰原伸也教授らが、高エネルギー加速器研究機構 (KEK) にある放射光科学研究施設 (PF-AR) のパルス X 線を用い、「100 億分の 1 秒の間だけ出現する過渡的な新しい物質の構造」を検出することに世界で初めて成功した (KEK のプレスリリースマイコミジャーナルの記事doi: 10.1038/nmat2929) 。

「ペロブスカイト型マンガン酸化物」という、低温では絶縁体相、高温では強磁性金属相を示す物質がある。低温条件下の絶縁体相は磁場、圧力、光などの外的作用により金属相へ瞬間的に相転移を起こすのだが、今回はこの相転移時の「動的な結晶構造」を検出できた、という話とのこと。強力な短パルスの X 線を使用し、さらに 80 nm という非常に薄い結晶を作製することで検出に成功したそうだ。

観測された構造は図 1 右下に示すように、従来の予測 (左上側) とは全く異なっており、結晶中で光励起前 (左下側) とも異なる新たな軌道秩序状態が生じていることがわかりました。これは光励起で生み出される「動的構造」に基づく新しい物質相が、「静的で安定な構造」に基づく従来の物質科学の考え方からは全く予想外の新しい秩序をもったものであることを示しています。また、これは温度による相転移では到達することのできない「隠れた物質相」を、光によって実現可能であることを実証しています。

とのことで、超高速な光現象のメカニズムを動画として観測できた点が画期的、ということだそうな。

この議論は賞味期限が切れたので、アーカイブ化されています。 新たにコメントを付けることはできません。
  • 観測の原理 (スコア:4, 興味深い)

    by TarZ (28055) on 2011年01月21日 13時00分 (#1891505) 日記

    レーザーパルスとX線パルスを交互に繰り返し入射する測定法(ポンプ・プローブ法)により ...

    • 観測のための光(今回はX線)のパルスを鋭くする
      カメラでいうと露光時間を短くする(シャッタースピードを速くする)ことに相当。これが遅いと被写体ブレするので、何が起こっているのかよく見えない。
    • レーザーに対してのX線の遅延を正確に制御する
      得られたスナップショットが、レーザーで物質の状態変化が始まって何秒後の状態か(動画像の何コマ目にあたるか)を把握できる。

    …という理解であっているでしょうか。「動画」というか、ある現象をちょっとずつ異なる時間で撮ったスナップショットを並べてみるようなイメージですかね。(高速回転する動きのものをムービーで撮ると、ゆっくり回転して見えることがあるのと似たような原理)

    今回、観測のための設備をわざわざ設計・建設したということは、これまでX線の領域ではこうした観測はできなかったということでしょうか。

    • by Anonymous Coward
      制御するのはレーザーの方です。

      加速器内では荷電粒子は塊で移動しており、そもそも極めて正確な周期で加速器内を回転しております。荷電粒子から放射されるX線も元の荷電粒子が塊ですので非常に鋭いパルス状です。

      • by Anonymous Coward
        PF-ARは元が KEK TRISTAN のメインリング内に荷電粒子を入射する前段の加速を担う加速器として作られたものを転用していると思います。なので、そもそも加速器の中に複数の荷電粒子の塊を回せるような形になっていなかったと記憶しています。B-Factory 計画の際にメインリングは Linac からの直接入射の形に改造されたので不要になってしまったんですね。 それを放射光施設として利用しているので PF-AR は比較的少数の荷電粒子の塊がパルス状にX線を放射するという特質を元々持っていたわけです。推測するに、今回作ったものは加速器自体というよりは、荷電粒子の塊がやってくるのにタイミングを合わせて短パルスレーザーを照射するとか、高時間分解能の検出器を組み合わせるとかいうあたりの測定システムの部分かと思われます。
    • by Anonymous Coward

      ポンプ・プローブ法は、ポンプ光(パルス)の照射をきっかけとして化学反応や物理現象を起こし、
      ポンプ光パルスから遅れてプローブ光(パルス)を照射することでその瞬間の状態を観測する手法です。
      ポンプ光とプローブ光は両方とも(欲しい時間分解能程度に)鋭いパルスである必要があり、かつ、
      ポンプ光とプローブ光の時間のずれ(遅れ)も、欲しい時間分解能程度の正確さで制御できる必要が
      あります。

      ポンプ光を照射してから起こる現象は、何度やっても同じ現象が起こるので(そういう現象が、
      ポンプ・プローブ法が適用できる対象となります)、ポンプ光を何度も照射し、そのたびに

      • ええと,詳しく書いていただいていますが,同じ事を身の回りの例を挙げて簡単に書かれたのがTarZさんのコメントなわけで……

        親コメント
      • by Anonymous Coward

        >短パルスレーザーをプリズム等を使ってふたつに分け

        プリズム仕様のビームスプリッタももちろんありますが、主流は金属蒸着膜による半透過型ではないかなあと。
        #膜厚が厚ければ全反射、薄ければ透過、その中間が半反射・半透過。

        >X線を使うのはKEKならではの新技術だと思います。

        そんな事はありません。
        今回はタイムスケールの部分でちょっと頑張ったってのと、面白いものを選んだと言うところがポイントであって、X線(を含めた)放射光を用いてのポンプ-プローブは現在ではそれなりに広く使われています。
        #分光特化型のUV-SORなぞも昔からポンプ-プローブやってますしね。

  • by nemui4 (20313) on 2011年01月21日 12時37分 (#1891482) 日記

    「X-ray」だと、X線波長の光っぽいけど。
    日本語で「X線」だと、電磁波のイメージになっちゃう。

    光は電磁波なんだからあってるんだろうけどさ。

    光による遷移というよりも電磁波による遷移って言う方がなんだかしっくりくるのは古いですか、そうですか。
    #レーザーで電磁波励起レーザーとかよりは光励起レーザーの方がしっくりくるのと逆なのか。

    CWなX-Ray照射とかできたらもちょっと長い時間存在できるんすかね。
    #すっかりド素人。

    • Re:X-ray (スコア:1, 参考になる)

      by Anonymous Coward on 2011年01月21日 14時12分 (#1891549)

      「光による励起」ってのは、光電効果のことですから、最も伝統的な励起状態の理解ですよ。「光は電磁波だから波」という定説を覆して、「粒かもな」と思わせたところが光量子仮説の歴史的な意義ですから。

      ペロブスカイト構造(セラミックな超伝導物質の典型的な結晶状態)をとる物質は、温度によって電気抵抗が全く違うわけですから、その相転移温度を境として全体としての電子軌道が全く違う(少なくとも、超伝導状態では自由電子があって、その電子がクーパーペアになっている)2つの相がある、ってのがクラッシックな理解。で、この相転移は「光による励起」でも再現できるんだけど、詳しく見ると、「光による励起」では途中に第3の安定な相があった、って話かと。X線を当てすぎると温度の方の相転移が起こってしまうので、難しいけど頑張った、というのが今回のストーリーなんでしょう。

      親コメント
      • by nemui4 (20313) on 2011年01月21日 14時49分 (#1891568) 日記

        なるほど、相転移の「間」にまた相転移があったってな感じですかね。
        びみょーなところにいるのか。

        それにしても「ペロブスカイト構造」という言葉はなかなか覚えられない・・・
        何語?

        親コメント
      • by Anonymous Coward
        元の論文を読んでいないのではずしているかもしれませんが、105K から 5K 刻みの測定があるあたりから推測すると温度コントロールはさほど難しくない領域なのではないかと思います。ダイレクトビーム当てるんじゃあるまいし、モノクロで普通に分光されていたら相当長時間当ててもいくらも熱くなんかならないと思いますよ。
        • by Anonymous Coward

          >モノクロで普通に分光されていたら相当長時間当ててもいくらも熱くなんかならないと思いますよ。

          いやいやとんでもない。
          放射光で測定してるとサンプルの温度上昇は大きな問題です。油断してるとすぐ数度ぐらいは上がっちゃいます。

          単色化されてないと本当に洒落にならない熱量なんで、それに比べればましですけどね。
          Spring-8の高輝度のラインで出てくる放射光の総エネルギーが数十kWぐらいだったか?
          #水冷していない部分にダイレクトビームが当たるとミラーだのパイプだのが溶けます。

        • by Anonymous Coward

          いや、この実験ではおそらく「結晶格子ごとの相転移」を観測しているので、資料全体の温度上昇のコントロールが簡単でもあまり意味が無いんじゃないでしょうか。これだけ狭い領域での相転移に要する熱エネルギーはかなり小さいでしょうから。

          それに、X線を当てれば励起してくれるだけの温度は元々必要なんだと思いますよ。

    • by Anonymous Coward

      >日本語で「X線」だと、電磁波のイメージになっちゃう。

      さっぱり同意できません。むしろ放射線のイメージしかない。

      • by nemui4 (20313) on 2011年01月21日 15時08分 (#1891577) 日記

        >さっぱり同意できません。むしろ放射線のイメージしかない。

        なるほど、電磁波や光だと放射線に比べて広範囲なくくりになりますからねぇ。
        今回はそういう広範囲なくくりでの「光」っていう呼称に違和感を覚えたと言うコトでした。
        より狭く絞っていくならいっそ放射線まで行った方が分かりやすいのかもしれません。

        --
        放射線(Radiationだっけ)って言われるとαβγを思い浮かべやすいけど、X線も言われてみると放射線だ。
        goo辞書では、
        --引用ここから--
        |放射性物質から放出されるα(アルファ)線・β(ベータ)線・γ(ガンマ)線の総称。
        |広くは、X線・中性子線・宇宙線なども含めて、すべての電磁波および粒子線をいう。
        |輻射線。
        --引用ここまで--

        ありゃ、電磁波全て放射線だったんすね。

        一般に「光」って言うとどうも「可視光」を思い浮かべてしまうから、IR以上やらUV以下の「光」は「○○線」となるので電磁波と呼びたくなってしまいます。

        #んでもUVレーザーやらIRレーザーでもみんな出てくるのは「レーザー光」って言ってしまったりもする・・・

        親コメント
  • by Anonymous Coward on 2011年01月21日 12時29分 (#1891475)
    Ω粒子ってヤツですかそうですか ST的に。
    • by Anonymous Coward
      取り扱いを誤るとワープできなくなるので注意してください
  • by Anonymous Coward on 2011年01月21日 14時45分 (#1891566)
    量子相転移を観測できるという意味でしょうか?

    低温下で、温度以外のパラメータ(この場合、電磁場の項)を動かして、
    (おそらく)量子ゆらぎによって、別の秩序相が出ていることからそう推測したのですが、、、

    すでに5年以上、離れているのでACで。

    専門家の解説をお願いします。
    • by Anonymous Coward

      これ以上詳細に説明されても、大半の人には「なるほど、わからん。」となるだけのような予感がします。

      # だが、それがいい。

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