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医療

磁性ナノ粒子による「癌の温熱療法」 10

ストーリー by reo
ピンポイント加熱 部門より

eggy 曰く、

韓国延世大学の Jinwoo Cheon 氏の率いる研究チームは、磁性ナノ粒子を癌組織に注入し、電磁場で磁気発熱させることで腫瘍局所を加熱してがん細胞を死滅させる「磁性ハイパーサーミア」をネズミで実験したところ、癌細胞を死滅させることに成功したとのこと (ScienceNOW の記事本家 /. 記事より) 。

癌細胞は 43 度以上の環境で死滅させる治療法「ハイパーサーミア」は今に始まったことではないが、癌に侵されていない正常な細胞に影響することなく如何にして癌細胞を加温するかが課題となっていた。

研究チームは、ネズミ 3 匹の腹部に人間の脳腫瘍細胞を移植し、そこへコアシェル型ナノ粒子を注入。電磁場を作るコイルの中にそのネズミを置いたところ、コイル内の電磁場は腫瘍を推定 43 ℃から 48 ℃にまで発熱。10 分のこの治療を 4 週間続けたところ、ネズミの癌細胞を死滅させることが出来たのだそうだ。これに対して、抗がん剤治療を一回受けたネズミは一時的に癌組織が縮小したものの、最終的には癌組織が 4 倍にまで広がってしまったという。

この議論は賞味期限が切れたので、アーカイブ化されています。 新たにコメントを付けることはできません。
  • hyperthermiaに磁性ナノ粒子を用いた事とか,それで効果がかなりあったことが新しいというよりは,磁性ナノ粒子の特性をうまいこと調整する事が出来て,そうするとマイクロ波吸収に効果的だよ,と言うところが新しいと言うお話になります.

    磁性ナノ粒子を使ってマイクロ波を吸収させようというのは,医療におけるhyperthermiaだとか,外来電磁波ノイズの軽減,発生する熱を用いてのナノ領域での様々なスイッチング(例としてはドラッグデリバリーでの薬剤放出が挙げられています)などに使えると言うことで多くの研究があります.ところが,実際に磁性ナノ粒子を用いてマイクロ波の吸収(熱へのエネルギー変換)を行うと,その変換効率がかなり低いことが問題の一つでした(まあ,hyperthermiaに関してはナノ粒子を沢山ぶち込めばいい,と言う見方もあるので現時点で足りないかどうかは微妙ですが).そのため,何とかしてマイクロ波の熱への変換効率を上げよう,という研究がいくつも行われています.

    さて,磁性ナノ粒子にマイクロ波を当てると,その磁気双極子をマイクロ波が揺さぶることでナノ粒子にエネルギーが伝わります.このとき,完全にマイクロ波に追従出来るとエネルギー損失がないため,熱は発生しません(摩擦のないものを滑らせているようなもの).逆に,あまりにも追従できないとこれまた熱が発生しません(摩擦が強すぎてまったく動かず,熱が発生しないようなもの).ナノ粒子がエネルギーをどの程度熱に転換できるかは,粒子のサイズ(磁気モーメントの大きさと,粒子の物理的な回転のし易さを決める)と,磁気異方性の大きさ(内部で,スピンが反転することによりマイクロ波を吸収する効果に関わる)の二つが重要なパラメータになります.
    ここで粒子のサイズは調製条件を変えることで変化させることが出来ていました.ところが磁気異方性の大きさはほぼ物質固有の値であるためコントロールできず,それが熱へのエネルギー変換効率の低さの一因となっていました.

    さて,実はこの磁気異方性,ナノ粒子の表面状態に大きく影響されることが知られています.例えば酸化物ナノ粒子だと,表面の酸素欠陥が多い・少ないといった事で異方性が大きく変わります.そこで著者らは,非常に異方性の強いCoFe2O4をコアに,異方性の非常に弱いMnFe2O4を外殻に用いてコアシェル型ナノ粒子を作成することで,磁気異方性を両者の間のほどよい値にもっていくことに成功しました.このナノ粒子を用いてマイクロ波の吸収を測定すると,これまでの系より1桁程度大きな発熱を引き起こせる事が判明しました.つまり,これまではコントロールできていなかった磁気異方性を調整してマイクロ波を吸収しやすい値に持って行くことで,熱への変換効率を非常に高くすることができた,というのが一番のキモとなります.

    Hyperthermiaへの適用/実演は,まあ,ぶっちゃけてしまえば,人目を引きやすい成果を含めることで高IFの雑誌に載りやすくするためという感じです.
    #別にそれが悪いわけではありませんし,良くやることですが.

  • by gtir (6513) on 2011年07月06日 17時29分 (#1982823) ホームページ

    NMRには金属を身につけた状態で近づくなとか、
    MRIには入れ墨をした人はやらない方がいい
    といった特徴を逆手にとった手法ってことですか?

    • by Anonymous Coward

      >NMRには金属を身につけた状態で近づくなとか

      こっちは違うな。
      単純に磁力でひっつく(と言うか飛んでいく)のを防止するためだから。
      #掃除機とかボンベとか飛んでくぜ!

  • 電子レンジのジレンマ (スコア:2, おもしろおかしい)

    by SNT (23129) on 2011年07月06日 21時24分 (#1982944)
    コレでお弁当を温めたときに、ご飯と一緒に漬物も温かくなっているという悲劇を解消できるわけですね。
  • by Anonymous Coward on 2011年07月06日 12時39分 (#1982624)

    > 癌に侵されていない正常な細胞に影響することなく如何にして癌細胞を加温するかが課題となっていた。

    これに関する解決策じゃない気がするけど。
    効率を10倍に上げて必要量が減ったから、ナノ粒子への免疫反応を抑えるという課題に対する効果はあるようだけれど。
    今回は、腫瘍細胞と一緒にナノ粒子を注入したようですし。

    で、実際問題hyperthermiaでのタレコミで言うような課題って、どうやるの?

    • これは加温療法に限らず一般的な内科的ガン治療の課題で, ガン細胞に選択的に薬剤を送り込む方法がドラッグデリバリーシステムとして研究されています. 代表的な方法としては

      • ガン細胞表面の特異的な分子を認識して, それに対して選択的に反応する分子標的型
      • ガン細胞の高い増殖率と, それによる各種栄養源の取り込み速度の速さを利用した分子修飾型(たとえばアミノ酸に放射線医療用の標的原子を修飾するとか)
      • ガン組織で多発する新生血管の隙間のサイズが通常の血管より大きいことを利用して, 丁度隙間を通れるサイズのナノカプセルに薬剤を封入することで, ガン組織に選択的に送り込む

      なんて方法があります. 今回のも, ナノ磁性体の大きさを適当なサイズに調整して, 新生血管経由で選択投与という方法じゃないかと思います.

      親コメント
  • by Anonymous Coward on 2011年07月06日 19時00分 (#1982864)
    も癌治療できるってことか
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皆さんもソースを読むときに、行と行の間を読むような気持ちで見てほしい -- あるハッカー

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