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地球

マヤ文明滅亡の原因、気候変動による干ばつ 32

ストーリー by reo
これもサイエンスのターゲットなのか 部門より

danceman 曰く、

西暦 800 年頃から 1,000 年頃にかけて衰退していったマヤ文明であるが、この間に起きた気候変動による干ばつがマヤ文明を滅亡に導いたとする論文が Science 誌に掲載されているとのこと (Motherboard の記事本家 /. 記事DOI: 10.1126/science.1216629より) 。

Martin Medina-Elizalde 氏及び Eelco Rhling 氏によれば、ユカタン半島はマヤ文明の衰退期に、連鎖的に起きた長期の干ばつに 8 つも見舞われていたのだそうだ。1 つの干ばつは連続 6 〜 18 年にも及び、干ばつの間は降雨量が 25 〜 40 % も減少して人口の 30 % が必要とする水が不足していたとのこと。

だが同論文は、気候変動による干ばつだけが文明滅亡の原因とはしておらず、水不足が引き起こした社会問題も絡んでいるとしている。その裏付けとして、マヤ文明の衰退期には国家間の戦争が激化していたとしている。

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  • 部門名 (スコア:4, 参考になる)

    by phason (22006) <mail@molecularscience.jp> on 2012年02月28日 11時34分 (#2107436) 日記

    >これもサイエンスのターゲットなのか

    使われている手法はかなりサイエンスに関連していると思います.
    まあ,手法に限らずとも,社会科学とか考古学もサイエンスと重なる分野ではありますし.

    今回の研究では,3つの手法で得られた4つのデータから当時の降水量を推定しています.

    ・湖底の堆積物中の酸素同位体存在比(2箇所)
    ・湖底の堆積物の密度
    ・石筍中の酸素同位体存在比

    実は,酸素同位体存在比は,様々な要因により変動します.
    例えば海水(など)からの蒸発の際には軽い原子ほど飛びやすいため,16Oを含む水の方が18Oを含む水より蒸発しやすくなります.逆に降る際には,重い水ほど凝集しやすいため逆の効果が生じます.
    また,温度が高くてたくさん蒸発する際にはこういった選別効果は効きにくくなりますので,元の海水の同位体存在比に近い比率で蒸発します.降るときも,バカスカ降るときは蒸気中の同位体比がそのまま降りますが,ちょっとしか降らないときには重い同位体が濃縮されます.
    生物中でも,重い同位体ほど分子中に取り込まれて固定化されやすい等の効果(これはどんな物質がどのように作られるかによって,重いものが濃縮されるか,軽いものが濃縮されるかが異なる)が効くため,周囲の環境とはまたちょっと違う同位体存在比になります(さらに温度にも依存する).

    湖底の堆積物中には様々なプランクトンの作った炭酸塩やケイ酸塩が含まれますが,気温を仮定すれば,生物濃縮の効果を取り除くことで,当時の湖水中の酸素同位体存在比が推定できます.同じく気温が推定できれば当時の海から蒸発した同位体比が推定できますから(海は海で,当時どういう同位体比であったか?という研究があったりする),これと湖水の同位体存在比の比較から降雨量(降雨量が多いほど,蒸発した蒸気に近い同位体比.降雨量が少なければ,蒸気中に比べ重い同位体が増える)がわかります.
    無機塩に関しても,湖水中の同位体比(と温度と析出時の濃縮効果)を反映した同位体存在比がわかりますので,他のデータ(当時の気温だとか何だとか.これはまた別の手段で推定した研究が既にある)とつきあわせることで,当時の降水量が推測できます.

    また堆積物の量は,上流から運ばれてくるもの(雨が多いほど多い)が堆積するわけで,これがどの程度密に詰まっているかから,当時どの程度の速度で堆積したか=どの程度雨が降っていたか,が推測されます.

    石筍ができる際には一度雨水に溶けそれが再析出しますので,雨水中の酸素原子を取り込みます.このため降水中の同位体存在比の影響を受け,それは降水量に依存し,という事でこれまた降水量を推定するデータが得られます.

    こういった研究はいわば不確実性の多いいろんな現象のデータを積み木のように積み上げて得られる結果であるため,取り扱いには注意が必要とされます(仮定が一つ間違うと,データの解釈の結果が違ってくる).
    今回は,場所が3箇所の異なるもの(ただし,ユカタン半島はそんなに大きくないので,降水量に大きな差はないと仮定.実際,現代の全般的な気候は似通っている)を用い,さらに手法も3つの異なるものを利用しています.で,そういった異なるデータが全て同じ傾向を示していたので確実性は高いよね,と.

    • by Anonymous Coward

      人文側からのアプローチとして

      ・都市間の衝突が激化した。
      ・なんらかの理由で人口が維持できなくなって、都市を捨てて沿岸部に移り住んだ。
      ・原因が干魃と思われるような話が伝わっている。

      ってのがあって、これに対して科学側からの裏付けが見えてきたと。
      お互いが補強する関係になり得るので、マヤ文明衰退に対する理解が一歩進むはず。

      次に出てくるのが、何故こんな長期に渡って干魃が起こったのかという気象学への発展。

      • by Anonymous Coward

        人文、というか歴オタに近い人種だと、こういう環境成因的な歴史の変化の『可能性』を『ちょっとでも』語ると、

        「そんな自然の変化や影響で人類様の歴史が決まって or 変わってたまるか~、
         フランス革命は小氷期の影響なんて一滴もないんだ、アントワネットがくそ・ナポレオンが英雄だったからだ~」

        って言い募るグループがいるんですよね。「銃・病原菌・鉄」を「くだらない」と評価するような人たち。

        たれこみの
        >だが同論文は、気候変動による干ばつだけが文明滅亡の原因とはしておらず、

        というところはそういう人向けの記述(著者が言いたいことではなかった)のような気がします。

        • by Anonymous Coward on 2012年02月28日 13時24分 (#2107528)
          『銃・病原菌・鉄』と言えば、同じ作者の人が書いている『文明崩壊 [amazon.co.jp]』でマヤ文明の例が詳細に取り上げられていた覚えがあります。
          要約するとこちらも、人口が増加しギリギリまで農地が開拓される→土壌流出などにより再生産能力が劣化する→大干ばつによる食料不足を引き金に戦争や飢餓で人口激減、という内容だったかと。
          今回のは、この大干ばつが「大」ではなかった [srad.jp]、という話のようですが、いずれにせよ同じような方向性の話にみえます。
          親コメント
  • >降雨量が 25 〜 40 % も減少して

    原論文のタイトルに"Modest Reduction in Precipitation"とあるように,"こんなに大幅に減って大変だ!"というのではなく,"やや少なめになった"ととらえるのが正しい気がします.

    今までは,人口の急減(ただし異論もある)や文明の全面的な崩壊から,この時期に非常に大規模で過酷な干魃や気候変動があったのではないか?と考えられていました.
    でも調べてみたら,確かに干ばつはあったものの,言われていたほど酷いものでもない,というのが明らかになったよと.

    そこまで過酷ではない干魃が続いただけで文明が大規模に崩壊したことに関しては,恐らくしばらく穏和な気候が続いた間に人口がめいっぱい増えていたため社会/自然環境が気候変動に対し余裕がない状況になっていて,そこに「それほどひどくはないが長期間の干魃」がやってきたことであっさりと限界を超えて崩壊したのではないか?という予想ですね.

    これを「処理能力ギリギリいっぱいで冗長性のないシステムにちょっとだけ負荷増やしたら全面崩壊した」と言い換えるとどこかで聞いたような話に!

    • 現在の文明が、同じ目に遭うのかどうかに興味がありますね。

      気候変動に関する最近の研究をちらちら見ていると、温室効果ガス絡みに関してはもはや影響は避けられない、という論調のものが多いように感じています。(直ちに強力な温室効果ガス排出削減を行ったとしてももう間に合わない)

      マヤの時代と違うのは、良い点としては

      - 今後の気候変動についてある程度予測する手段があること
      - それに備えるための農業技術が色々とあること(機械化した大規模農業、品種改良、肥料・土壌改良・灌漑技術など)
      - 現在の文明は全地球的規模になっているので、(やろうと思えば)農業適地の変動を吸収する余地があること

      悪い点としては

      - ドンパチする武器が発達していること

      今のところ、軍事的に強い国が農業的にも強いから、このあたりは今後100年くらいのスパンでは大丈夫かなあ、などと楽観的に考えていますが。

      親コメント
      • by Anonymous Coward

        数万年数十万年かけて溜まった地下水の半分を数十年で使ちゃったりしているので100年は無理そう。

    • by Anonymous Coward

      ニワトリを脳死にしてまで生産性を追求してる現代
      温暖化により予想される気候変動
      やっぱ、崩れるときは全面崩壊して文明の維持すらできなくなるんだな。

      • by Anonymous Coward

        一行毎に無関係なことを書けるというのはある意味才能な気がする。

        • >一行毎に無関係なことを書けるというのはある意味才能な気がする。

          文明崩壊に至る原因の一部が前段2行という内容に読めませんか。
          そうですか。
          #更に行間を読んだりもしませんか、そうですか。

          親コメント
          • by Anonymous Coward

            前2行と最後の行の間に因果関係がないので
            そうは読めません。

            > #更に行間を読んだりもしませんか、そうですか。
            行間を読んだと称して、書いてもいないことを妄想して読み出す人っていますよね。

    • by Anonymous Coward

      そこまで過酷ではない干魃が続いただけで文明が大規模に崩壊したことに関しては,恐らくしばらく穏和な気候が続いた間に人口がめいっぱい増えていたため社会/自然環境が気候変動に対し余裕がない状況になっていて,そこに「それほどひどくはないが長期間の干魃」がやってきたことであっさりと限界を超えて崩壊したのではないか?という予想ですね.

      シュメール文明がそういう崩壊過程だったのでは、というのが「古代文明と気候大変動」という本にありました。
      狩猟・採集型小集団だったら狩場を移動すればすんでいたが、文明化して灌漑施設を整備し都市化して人口を集中させると、
      文明は小規模・短期間な災害には万全の対策であったが、未曽有の災害に対してはぎゃくに脆弱であったと。

      この本では、現代にみられる例としてニューオーリンズ(ミシシッピ河口δ地帯につくった都市)を引いて、
      「100年ごとに訪れる洪水に対しては安全になったが、1000年、1万年に一度の洪水に関しては無事を祈るばかりである」と、
      どこかで聞いた話に!

      • by Anonymous Coward

        でも100年に1度レベルのは対策して、1000年に1度レベルの災害に対しては祈るだけ。
        ってのは現実解としての落としどころだと思うんだよねぇ……

        • > 1000年に1度レベルの災害に対しては祈るだけ。
          > ってのは現実解としての落としどころだと思うんだよねぇ……

          その割り切り方は災害が起こった後にあれこれ
          人手をかけずに事態を放置しておいても問題が
          ないなら場合に限って有効。

          親コメント
          • by Anonymous Coward

            「人手をかけずに事態を放置しておいても問題がない」からその手段を取るのではありませんよ。
            「いざ起きた時に切り捨てる範囲と、対策に必要なコストが吊り合わない場合」にその手段を取るのです。

            この切り捨てる範囲ってのは時として全人類を含み得ます。

            隕石が降ってきて地球全土がマグマに覆われる場合に備えて一千垓円投資するよりは、その災害が発生した場合には大半の人類を切り捨てることにして、災害が起きないように祈るってのは普通に行われてる事です。

            つまり。人それを杞憂と呼ぶ。

        • by Anonymous Coward

          ああ、そうじゃなくてこの本は「そもそもそんなとこに定住すんな」なの。

      • by Anonymous Coward

        「100年ごとに訪れる洪水に対しては安全になったが、1000年、1万年に一度の洪水に関しては無事を祈るばかりである」と、
        どこかで聞いた話に!

        「100年ごとに訪れる津波に対しては安全になったが、1000年、1万年に一度の津波に関しては無事を祈るばかりである」と、
        どこかで聞いた話に!(例えば、福島第一原子力発電所他多数)
        失敬!

  • by Anonymous Coward on 2012年02月28日 11時04分 (#2107407)

    3度の大干ばつが原因か マヤ文明の崩壊 [47news.jp](2003年3月の記事)
    新たな知見が得られたということでしょうか?

    • by Anonymous Coward

      大干ばつだとおもっていたらそれほど酷い干ばつではなかった!
      というのが新たな知見ですかね.

  • by Anonymous Coward on 2012年02月28日 12時29分 (#2107484)

    マヤって定期的に滅亡してるんじゃなかったっけ?

    • by Anonymous Coward on 2012年02月28日 15時23分 (#2107619)

      近年連載が再開され、単行本新刊も出てますよ

      親コメント
      • by Anonymous Coward

        ちなみに復活時には文明が進むらしくてそれまで黒電話しかなかったのが
        携帯電話を使うようになったらしいです。

        • by Anonymous Coward

          じゃ、亜弓様は衛星携帯電話?

    • by Anonymous Coward

      2012年に一回でしょ?

      • by Anonymous Coward

        あれはマヤ暦の2037年問題みたいなものだから。
        2037年問題だって放置してたら67年くらいに1回起きるでしょ。

  • by Anonymous Coward on 2012年02月28日 12時45分 (#2107497)

    干ばつが原因で滅んだって言っていいと思うけど。
    現代文明も石油が完全に枯渇する前に石油の奪い合いで戦争が起きて滅亡すると思うし。

    • by Anonymous Coward

      別スレにもでてるけど、途中で「人間の意志」が入ってないと嫌悪感を示す歴史学者(欧米で)がいるんですよ。
      マヤの崩壊なら、「渇水=即⇒滅亡」じゃなくて、「渇水⇒戦争状態⇒滅亡」で、戦争状態を人間の意志で避けられたら
      めつぼうしなかったんじゃないかー()、って考えたい人たちが居る。

      キリスト教のくびきで、「人間の意志」が入ってないと、神によって歴史の進展はすべて決められている、
      という過去の歴史観を想起させるのかなぁ。
      理系でも「宇宙の創造」って学問がキリスト教(「創造」=神が主語の動詞)への嫌悪と同一視されたり。

    • by Anonymous Coward
      そういえば割と最近も大産油国に戦争ふっかけて滅亡寸前まで追い込まれた国がありましたねw
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長期的な見通しやビジョンはあえて持たないようにしてる -- Linus Torvalds

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