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サイエンス

1リットルあたり2gという自然界で最も軽い液体 52

ストーリー by hylom
ただし常温では存在不可 部門より

あるAnonymous Cowardのタレコミによると、東京大学の研究チームが「世界でもっとも軽い液体」を発見したという(読売新聞東大のプレスリリース論文概要)。

通常のヘリウムよりも軽いヘリウム3を平面に閉じ込めて温度を下げたところ、絶対零度近くで液体に変わったそうだ。この液体は1リットルあたり2gという重さで、世界で最も軽い液体だという。

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  • 要約 (スコア:3, 参考になる)

    by phason (22006) <mail@molecularscience.jp> on 2012年12月27日 15時25分 (#2297566) 日記

    要約というかまとめというか.
    まあそもそも東大のプレスリリースが非常に良くまとまっているのでそれで良いかと思っていたのですが,そこまで読むほどではないなあ,と言う人が結構いて議論が混乱しているようなのでまとめておきます.

    3Heの液化に関して
    既に書かれている方がいらっしゃいますが,3Heの液化自体は遙か昔に達成されています.では今回何が新しいのかというと,2次元系でも液化した,という点です.
    なお,過去にも「2次元系で液化したかも?」という報告はあるのですが,データの信頼性がいまいちだったり,3次元の4Heに表層1層分だけ乗っかった3Heだったりで問題がありました.
    後者の方の問題は,4Heが混じってきてしまう可能性とか,下層の4Heが軟らかいために面に垂直な方向に振幅を持つ波が発生,その波を介して3He同士が相互作用してしまう可能性が排除出来ない(純粋な二次元3He系ではなくなる)と言うものです.

    ・2次元系に関して
    物理において通常2次元系(擬2次元系)と呼んでいるのは,
    (1) 運動の方向が2次元方向に制限されている
    (2) 相互作用の方向も2次元に制限されている
    と言うような系です.厚みがゼロ,というわけではありません.
    だから例えばビリヤードなんかも(球を飛ばさない限りは)古典力学的には2次元系になります.同様に,運動方向だとか相互作用の方向が1軸方向だけに制限された(擬)1次元系というのもよく物理の研究対象になります.
    こういった低次元系の何が面白いのかというと,相転移を起こしにくくなる,と言うのが一つあげられます.
    相転移というのは,多数の粒子が相互作用することで協調的に別の相へと状態が変化することです.例えば固体が溶けて液体になるとか,気体が液化するとか,バラバラな方向を向いていたスピンが一つの方向に揃って強磁性の磁石になるとか,です.
    こういった相転移は,次元性が下がると起こりにくくなります.と言うのも相互作用のパスの本数が劇的に減少するからです.3次元に詰まった粒子があったとしましょう.この中の一辺R程度のサイズの微小な部分が別な相に転移したとします.例えば固体内の微小部位が溶けた,でもかまいません.この時,異なる2つの相(元々あった大部分を占める相と,中に生じた一辺Rの微小な相)の境界で発生する界面エネルギーは表面積に比例しますから,R2のオーダーです.
    ところがもし系が2次元なら,界面は領域の周だけですから,R1に比例します.つまり低次元の方が,相を壊そうとしたときに必要なエネルギーが少なくなるわけです(揺らぎに弱い).1次元だとさらに極端なことになり,界面エネルギーは定数になります.

    要するに,低次元系だと揺らぎの効果が大きく転移しにくくなるわけです.特に,軽いHe(中でもフェルミオンな3He)では量子効果による揺らぎが大きいので,低次元化すると相転移を起こさない可能性が高くなります.

    ・理論予測に関して
    これまでの理論的な予測では2次元系の3Heは液化しないはずでした.それが液化したという事は,(実験上の問題が無い限り)これまでの理論が間違っていた,という事になります.
    ただしここで言う「理論」というのはあくまでも多体系の統計力学に関するものであって,量子論の見直しが必要だとかそういうわけではありません.
    多体系の計算は厳密に行うのが(計算量的に)不可能であり,様々な近似などが行われています.またあちこちで出てくる発散項を押さえ込むために非常にトリッキーな操作が行われることも少なくありません.
    通常はこの手の近似は「○○の相互作用は,××に比べると圧倒的に小さいから無視してOK」というような感じでそれなりの正当性を持っているのですが,超低温だの何だのと言った極限状態では,この近似が破綻することがあり得ます.例えば「○○の相互作用は,××に比べると圧倒的に小さい」はずだったのに,極端条件下では実は○○という相互作用は他の別な強い相互作用と厳密に打ち消し合い,そのせいでこれまでは隠れていた××という相互作用をまともに取り扱わないと現実と合わない,とか,実は××という相互作用の係数を厳密に計算するとlog(T)という項を含んでいて低温でこいつが発散する,とかです.
    ですからまあ,今回の実験結果が正しい場合は,理論家がこれを説明する新しい近似法なり計算法なりの開発に取りかかることでしょう.

  • by Anonymous Coward on 2012年12月27日 7時50分 (#2297210)

    2次元に物質を閉じ込める技術のほうがすごいニュースだ。

  • by prankster (12979) on 2012年12月27日 8時45分 (#2297231)
    話題になっているということは液体ヘリウム3の密度がこれまでは測定されていなかったとい事ですよね。
    「世界でもっとも軽い液体発見」よりも「世界初、液体ヘリウム3の密度を測定」の方が見出しとして目を引くと思うのは理系だからでしょうか?
    # 液体ヘリムム3の密度は液体ヘリウム4の密度より低いと予想されていたはず。それを実測したって事ね。
    • by Anonymous Coward on 2012年12月27日 9時12分 (#2297258)

      プレスリリースより:

      ところが、質量が小さく引力も弱いヘリウム原子(4He)の場合、ハイゼンベルクの不確定性原理のため、絶対零度でも液体のまま固化しない。このような液体を量子液体とよび、超流動現象など驚くべき性質をもっている。では、絶対零度でも真の安定状態として気体にとどまる量子気体は存在するだろうか?その唯一の候補と考えられてきた物質が、ヘリウム3原子(3He)を2次元空間に閉じ込めた系(以下、2次元ヘリウム3)である。

      ヘリウム3が「液化したこと」自体が新発見ぽいですよ?

      親コメント
      • by prankster (12979) on 2012年12月27日 10時03分 (#2297287)
        なるほど。すると「世界初、ヘリウム3の液化に成功。ついでに密度も測る。」ですかね。
        よく考えてみると液体ヘリウム3の物性が測定されていなかったのはそもそも液化に成功していなかったという事です。そこに気付かなかったのは間抜け。
        勉強になりました。
        親コメント
        • さらに細かいことを言うと、プレスリリースに

          従来の研究では、パドル形成を観測したと主張するグループと観測しなかったと報告するグループがあって状況は混沌としていた。

          とあるように、「『水たまり状に液化させることに成功した』と主張するグループはあったが、基板側の物性の影響を排除できていなかった。今回はそういう影響を排除して、ヘリウム3を2次元空間に閉じ込めたときの普遍的な性質として『液化する』ということが確認できた。」ということだと思います。

          # プレスリリース中にも「(3)さらに単原子層固体ヘリウム3も挿入した場合」とあるように、基板側の条件によってはヘリウム3の固体が存在するようですから、「外界の影響を受けた液体ヘリウム3」を作り出すことはできたんじゃないかと思います

          親コメント
      • by Anonymous Coward

        ヘリウム3原子を直列に並べた1次元ヘリウム3だと気体のままだったりするんだろうか。
        いや、どうやって並べるか知らないけど。CNTの中に"棒"で押し込む?w

    • 3次元の液体ヘリウム3ならとっくに作られて超流動などの研究済みだよ。
      今回のは「2次元」の液体ヘリウム3。
      そして2次元のヘリウム3は液体にならないと予想されてたのにひっくり返ったのが大事(おおごと)。

      --
      the.ACount
      親コメント
  • by Anonymous Coward on 2012年12月27日 6時27分 (#2297199)

    ジュピトリスの活躍が報われたな

  • by Anonymous Coward on 2012年12月27日 6時41分 (#2297200)

    ヘリウム3を平面に閉じ込めて絶対零度近くまで温度を下げる、というのが、
    人工的に作られた環境下ではなく存在しうるということだろうか。

    • by Anonymous Coward

      そもそもヘリウム3自体が自然界にはほとんど存在しない

    • by Anonymous Coward

      小説など想像の世界でなくということだろうか。
      #ふわふわなら、固体で最も軽量(マイナスだしw)

      • ドモン・カッシュ氏曰く
        「人類もまた自然の一部。それを抹殺するなど自然を破壊するも同じ」
        だそうなので、そういうのも自然界の一部ですね。

        親コメント
      • by Anonymous Coward

        ふわふわは浮力のおかげで見かけ上軽くみえるだけなので、今回の話と関連づけるのはどうかと。

        • by Anonymous Coward

          そこを読み取れない人って、ふわふわの泉はSFじゃなくて魔法物語みたいに読んでるのかなぁ?

          • by Anonymous Coward

            元ACですが、まぁ科学は学生レベルなので反論は出来ませんが
            今回のヘリウム3は、液化する分子としてはもっとも密度が低いものが発見されたということで、非常に面白いので
            連想として、もっとも軽い分子としてふわふわを挙げました。
            ふわふわは、チッ化炭素からなる巨大な分子で、たまたま真空を内包しているから、見かけ上軽い固体と思ってました。
            (まぁ、乳鉢でつぶれる時点で違うといわれたらそれまでなんですけど)

            そもそも、分子と構造物の境目ってどこにあるんでしょう?C60のように構造体っぽいけど強固な結合を持っている
            のは分子だと理解しているんですが。化学的な定義は違うのかな?

            #ただ霧子さんは魔法物語だと思うんだ

            • by Anonymous Coward

              にしたってマイナスはなかろうだよもん

              あの手の知性体は野尻氏の十八番になりつつあるので、何ともかんとも……
              ほんのちょっと違うと太陽の簒奪者になっていたでしょうし……、というか、大元のアイデアは割と共通な気がします

    • by Anonymous Coward
      自然界=自然科学の法則に支配された世界
      です。

      自然界=我々人間が生活しているこの地球上の自然環境
      ではありません。
      • by Anonymous Coward

        わざわざ「自然界で」って断っているけど、
        物理学で「自然科学の法則に支配された世界」以外のものを扱うことってあるの?

        • 宇宙論では物理法則の違う宇宙が多重発生してる説があるな。

          --
          the.ACount
          親コメント
        • by Anonymous Coward
          一般向けのプレスリリースでの表現ですよ。
          • by Anonymous Coward

            いや、扱うの?

            • はい。
              物理定数は変化する? [nikkei-science.com]

              特に関心を集めているのは,光速c,1個の電子が持つ電荷e,プランク定数h,そして,いわゆる真空の誘電率ε0の比をとった定数α=e2/2ε0hcだ。
               「微細構造定数」として広く知られるこの値は,電磁気学に量子力学理論を適用した先駆者ゾンマーフェルト(Arnold Sommerfeld)によって1916年に初めて導入されたもので,真空中の荷電粒子の振る舞い(ε0)を含む電磁(e)相互作用に関して,相対論的な性質(c)と量子論的な性質(h)を関係づけている。αは約1/137(1/137.03599976)の値を持つということが測定からわかっているため,物理学者の間では137という数値が特別な意味を持つようになった(彼らのブリーフケースの鍵の番号はたいてい137だ)。
               仮にαの値が違っていたら,私たちの周囲の世界は現在とはまるで異なるものになるはずだ。αが今よりも小さくなれば,原子からなる固体の密度が低下し,分子の結合がもっと低い温度で切れるようになり,周期表の安定な元素の数が増える。逆に大幅に大きくなれば,原子核内の陽子間に働く電気的な反発力が,核子を結びつける「強い力」を上回り,原子核は存在できなくなる。たとえば,αが0.1まで大きくなると,炭素原子核はばらばらに分裂してしまう。

              「我々の宇宙での定数が、もし変わったらどうだろう?」というところも扱ってますよ。

              親コメント
              • by Anonymous Coward

                それも「自然の法則がどういうものか」という研究じゃないの?

              • by Anonymous Coward
                多くの方の多くの回答を得ながらも、そのいずれもが自らの望む回答でないならば、自身のアプローチに問題がある可能性を検討することをお勧めする。
                ここはキミのためのゼミではない。
            • by Anonymous Coward

              扱いますよ
              理想化された状態とか

              • by Anonymous Coward

                でもこの話題って正にその「理想化された状態」でしょ。

            • by Anonymous Coward

              アインシュタインは「もし、光よりも速く進むものがあったら」っていう
              彼自身の後の証明によると自然界にありえない、自然の法則に支配されていない世界を
              思考実験することで、自然の法則(=特殊相対論)を導いてますね。

            • by Anonymous Coward

              物理習う一番最初って単純な力学だけで、
              それ以外の法則には全く支配されてないですよね。

              • by Anonymous Coward

                予算の法則には縛られているはずだ

  • by Anonymous Coward on 2012年12月27日 10時21分 (#2297302)
    三次元の物質を二次元に閉じ込めると書いても違和感を持たない/.編集者と、最大入力電力0.66kVAのx3550M4の消費電力をコンフィギュレータの出力との注釈だけで最大850Wと書いてしまうメーカーとどっちがましかな。
    • by Anonymous Coward

      プレスリリースからして「2次元空間に閉じ込めた」って言ってるんだし、言いたいことは伝わってきたよ。
      そういうイメージができない方が理科的センスの不足じゃないかと。

      • by Anonymous Coward
        二次元空間を安易に平面にしている所が、アイキャッチ優先に過ぎる訳でして。

        ##まあ、この辺に拘泥するのもセンスの良し悪しでんな。
      • by Anonymous Coward

        突っ込みをしたいだけの人に何を言っても無駄だと思います。
        ここに突っ込みを入れるのはそれこそ理科的センスが不足しているんですがねえ。

  • by Anonymous Coward on 2012年12月27日 12時15分 (#2297410)

    このような軽い液体が容器の中を揺れるさまをどのような擬音で表現するのだろうか。

  • by Anonymous Coward on 2012年12月28日 1時31分 (#2297832)

    1リットルで2gだと、空気よりは重いんだね。
    ふわふわ漂う液体を想像したけど、もう一歩。

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海軍に入るくらいなら海賊になった方がいい -- Steven Paul Jobs

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