
「家庭向け原子力発電機」の開発をあきらめないNASA 39
ストーリー by hylom
実現したとしても日本での普及が難しそうだ 部門より
実現したとしても日本での普及が難しそうだ 部門より
あるAnonymous Coward 曰く、
NASAが自動車や飛行機、家庭などで利用するための「 low-energy nuclear reaction(LENR)」と呼ばれる常温核融合炉を開発中だという(ExtremeTech)。
小型で安く製造でき、安全でクリーン、放射線や核廃棄物を出さずに熱と電気を供給できるという夢のようなデバイスだという。まだ開発中とのことで落とし穴もあるだろう。詳しい人が解説してくれると嬉しい。
常温核融合炉は夢のような話で実現は不可能という意見もあるが、New Energy Timesの記事によると、これが今話題になっている理由は、NASAの「Global CLimate Change」サイトに掲載された「The nuclear reactor in your basement 」という記事が発端の模様。ただし、この記事はLENRの紹介がメインで、それが実際に実現できるかどうかは言及されていない。
LENR (スコア:5, 参考になる)
皆さんご存じの通り,常温核融合は一時熱狂的に迎えられた後,核物理の専門家からめった打ちにされて表舞台からほぼ姿を消しました.
まあ原因はいろいろあったのですが,まず問題になったのが再現性の無さです.同じ人間が実験しても再現されない,「再現性は良い」という人の実験でも他の人が見学しているとなぜか偶然再現しない,常温核融合研究者同士の間ではそれなりに再現されるけどチェックを厳しくしている外部の機関では再現されない,などです.
このことから,一般の研究者の間ではあれらは較正ミスや実験のセッティングの問題だろうと見なされています.
(特に,薄膜での発熱を議論することが多く,「体積あたりに直すと○○の熱量になり非常に多い」という議論のため,少しのセッティングのミスが結果を大きく左右してしまう)
核物理方面で問題になったのが,中性子やガンマ線の発生量のあまりの少なさです.通常の再現実験では事実上検出されないレベルであったため,彼らが主張していた核反応経路と矛盾しており,核反応は起こっていないだろうという強い証拠となりました.
#中性子が出ている,と主張する人もいるものの,再現(略)
さらに,核変換が起こっているとされるものの,生じた新たな核種は電極の極薄い表面でしか検出されていません.一般的にはこれは表面のコンタミか何かだろうと考えられます.何せ常温核融合を主張する人々の考えでは金属内部にまで浸透した水素や重水素も反応しなければならないので,変換された核種は非常に深いところにも存在していないといけないからです.
またそもそも,クーロンポテンシャルを乗り越えてなぜ核融合が起きるのか?という点に関しても,満足な理屈は与えられませんでした.初期には触媒として働くいろいろな新規素粒子が提案されたりもしましたが,そんなもんが電極中でほいほい出てくるなら何で他の素核実験で出てこないんだ?というもっともな反論で下火に.
じゃあこれだけめった打ちにされて常温核融合の研究者は消えたのかと言えばさにあらず.今でも一部の人々が研究を続けています.こういった人々はいくつかに分けられます.
・とにかく常温核融合は絶対正しいんだ派(当時から残る,数少ない実験系の人に多い)
・一発逆転狙い派.確率は低くても,当たればでかい宝くじ(何せ,実証できれば歴史に名を残す事間違いなし)
・理論を考えるネタになれば,実現できるかどうかはどうでもいい派(先日の「ニュートリノ光速超えてるかも問題」でいち早く理論家がそれを正当化する理論を矢継ぎ早に出した事からわかるように,理屈と軟膏はどこにでも付く)
などですかね.理論家が全部3番というわけでは無く,信じ込んだあげくそれを正当化するいびつな理論を連発する人もいます.
まあそういういろいろな人たちが細々と研究する中から出てきたのが,今回話題になっている表面プラズモンポラリトンを使う,というアイディアです(Wisdom-Larsen理論).このアイディアは,
・再現性が低い
・表面でしか核変換が起こらない
・中性子が出てこない
・クーロンポテンシャルを乗り越えるのが大変
と言うのをまとめて解決しようといろいろ考えたあげくひねり出されたものです.
金属の表面には,表面プラズモンという電子の疎密波が励起出来ます.これは最近のナノ粒子の研究と絡んで研究が進んでいるのですが(何せナノ粒子は表面の比率が尋常じゃ無く大きい),局所的に非常に強い電場(105から1010 V/m程度だったか)を作る事が可能です.このプラズモン振動と,外部からの光が相互作用すると,表面プラズモンポラリトンというものが出来上がります.ポラリトンというのは電子の集団振動と光がカップルしたもので,「光の振動(電場と磁場の振動)」と「電子の集団振動による電場の振動」とが量子論的に重ね合わされたような状態です.この光と重ね合わさる電子の集団振動が表面プラズモンだった場合を,特に表面プラズモンポラリトンと呼ぶわけです.
で,今回の常温核融合の理論では,この「集団励起状態にいる電子」が,金属中にトラップされたプロトン(水素原子核)にアタックする事で電子捕獲が起こる,という事になっています.電子捕獲というのは陽子が電子を吸収して中性子に変換されるもので,β崩壊の逆みたいなもんですね.
こうして固体中に超低速な中性子が発生し,これが周囲の原子核に取り込まれる事で核変換が起こる,と言うのが理論の中心となります.
本来ならこの電子捕獲は1MeV弱だったかその程度のエネルギー障壁があるのですが,「電子多数と光の組み合わさった集団励起(表面プラズモンポラリトン)がプロトンにアタックするとして計算すると,このエネルギー障壁は乗り越えられるぐらい十分小さくなるよ!」と言うのが理論の主張です.この集団励起状態を一種の電子の励起状態と見なすと,計算上の有効質量(電子が多体との相互作用で動きにくくなっている効果を,全部電子の質量項に押し込んで「重くなったから」と見なして扱うやり方)は非常に大きくなります(何せいろいろなものを引きずっている).これをそのまま「重い電子」として扱えば,原子核の位置での電子密度が十分大きくなって電子捕獲係数が跳ね上がる,という発想です(ただ,元研究をしっかり追ってる時間が何ので,概要しかわかりませんが).
この理論を採用すると何が解決できるかというと,
・表面プラズモンが絡むので,電極表面でしか反応しない事と整合
・超低速中性子が生じて他の核に入り込むだけなので,通常想定されていた重水素の直接核融合のように高速中性子を出す事は無い(から,それが観測されていなくても問題ない)
・表面プラズモンは金属表面の微細構造に強く依存するから,ナノサイズまできちっと作った電極で無ければ再現性が低くても当然.
・集団励起ならクーロン障壁も問題にならない
と言う事で,これまで問題と言われていた点を突破できるよ!という「主張」です.
*ただし,「お前その集団励起描像,本当に核反応が起こるところまで成り立つとおもってんの?」(核反応の時点では結局反応するのは一電子なので,そのプロセスにおいては集団励起描像が破綻する可能性が高い)という反論なども多数出されているので,そもそも理論が正しいのかどうかも不明(個人的にはだいぶ無理がある気がする).推進派としては,「なら実験で示してやらぁ!」といろいろ実験を行っているところです.
(続く)
Re:LENR (スコア:5, 参考になる)
そんなわけで近年,常温核融合やってた人々の一部がこの「集団励起による中性子生成」の研究を行っています.
*ただ非常に胡散臭い実験をする人が多いのはいつもの事で,例えばE-Catと言う有名な装置があるのですが,これは電力を供給するとそれを元に内部で常温核融合を起こし,より多くの電力を出力する,という触れ込みです.各種イベントに持ち込んで「ほーらこんなに出力が出てくるよ」とデモして出資を集めたのですが,その後外部の研究者が「装置そのものには我々は手を触れずブラックボックス状態で良いから,うちの環境で検証実験させてよ」と言っても「うちの技術が盗まれるから断じて拒否!」&「今後は一切公開実験はしない!」と言い出したりと素敵な事になっていたりもします.
まあそれはさておき,(最終的に正しいかどうかはともかく)新しい理論が提示されたので,実験をやっている人たちが存在します.今回出てきたNASAの人もその一人.ただ一応書いておくと,NASAの研究ではありますが,NASAが総力を挙げて研究していたり,と言うのとはちょっと違います.NASAの中に「将来当たれば凄いよ!」という研究をする部門があって,そこのある研究グループがやっている,と言うものになります.「○○大学にはこの研究をやっている研究室がある」というのと似た感じでしょうか.ただし,NASAにオフィシャルに雇われている人が,きちんと予算を付けてもらって研究しているものですから,「実はこれを開発したのは元NASAの(略)」とか「NASAの技術でお米がうまい!」とかそう言うのとは違います.
この人が現在やっているのは,表面のナノ構造まできっちり作った金属に水素を吸蔵させて,光を当てて表面プラズモンポラリトンを励起したときに本当に中性子が出るのか?核変換は起こるのか?とかそのあたりです.「常温核融合炉の開発」とか言うレベルでは無く,「常温核融合を可能にする(かも知れない)理論が,本当に正しいのかを調べる研究」と言うものになります.
ここから先,実際の常温核融合炉に行くにはまだまだ先が長くて,少なくとも以下の二点をクリアする必要があります.
1. 理論は本当に正しいのか?
理屈は出たが,それが正しいという証明は実現できていない(それをやるための研究).いろいろ理論の問題点も指摘されているので,どうなるかは謎.
例えば先日のニュートリノ超光速騒ぎの時も「ニュートリノで超光速を出せる理論」がいくつも提出されたように,理論なんてのは結構どうとでもなってしまう側面があります.
(全部を正確には扱えないのでいろいろ近似を入れるため,そのやり方によってはおかしな結果が導かれてしまう)
2. 理論が正しいとして,エネルギーを得る上で十分なほどの頻度で中性子が発生するのか?
理論が正しいなら,超低速中性子が発生する可能性がありますが,例えばその個数が毎秒一個,とかではエネルギー源としてはとても話になりません.そのため,もし理論が正しい事がわかったとしても,それがすぐに使える核融合炉の作成に繋がるというわけではありません.
まあ「厳しいだろうが,当たればとんでもなくでかい」という研究ですよね.
Re: (スコア:0)
シノプシスを添えてもらえるとうれしいです ><
Re: (スコア:0)
常温核融合がフルボッコされる
↓
Wisdom&Larsen「私にいい考えがある」
↓
NASAの研究者が、本当にいい考えかどうか実験中
Re: (スコア:0)
シノプシスのシノプシスとはこれ如何に。
普及には家族の理解が鍵 (スコア:4, おもしろおかしい)
いわゆる核家族問題(違
英語でも (スコア:1)
"Dad's Nuke" という小説が、核エネルギーと核家族のダブルミーニングでしたね。
邦題は『パパの原発』だったかな。
#家庭用の核というと、これしか思いつかない。
Re: (スコア:0)
あろひろしの若奥さまのアブナイ趣味に一家に一つ核ミサイルで増え続ける核家族というのがありましたね。
Re: (スコア:0)
精子と卵子が核融合ですね。
核分裂したりメルトダウンしないように取扱いには注意しましょう。
Re: (スコア:0)
> 核分裂したりメルトダウンしないように取扱いには注意しましょう。
融合した後は分裂します。
Re: (スコア:0)
Re: (スコア:0)
アトムくんとウランちゃん、コバルト兄さんのことですか
未来ガジェット2号機 「Q推進(Q-thruster)」 (スコア:4, 興味深い)
「常温かくゆーごー」くらいでビックリしちゃいけません。NASAは量子推進機関だって研究しているんですぜ。
Propulsion on an Interstellar Scale ? the Quantum Vacuum Plasma Thruster [engineering.com]
NASA Eagleworks Laboratories: Advanced Propulsion Physics Research [nasa.gov] (PDF)
動的カシミール効果による真空のどーたらこーたら ...(中略)... をMHDで推力にするので、なんと推進剤不要。ある試算では電気入力 10W あたり推力 4mN 出るので、仮に原子炉電気出力 2MW 、原子炉込み全体質量が 50トンの宇宙船をつくれたとしたら、木星軌道まで35日で行けるという素敵な推進機関ですよ。
加えて、NASA研究開発技術の民間応用レベルの高さは異常ですから、量子推進アシスト自転車とか量子推進ペットボトルロケットあたりの登場は大いに期待されるところです。
Re: (スコア:0)
荷電粒子である太陽風の中で強力な磁場を発生させることでリニアモータの原理で云々
Re: (スコア:0)
SFの世界だな
衛星の電池は? (スコア:2)
あれは宇宙だから環境きにしなくていいとかいうもんでしたっけ?
どの程度の電力なのかはわからんが・・・・
Re:衛星の電池は? (スコア:2)
原子力電池ってただの崩壊熱使ったゼーベック効果じゃありませんでしたっけ…
Re:衛星の電池は? (スコア:2)
ほとんどはその通りなんですが, 中には本当に原子炉を搭載した衛星 [so-net.ne.jp]も有って.
Re: (スコア:0)
それは電池ではありません。
Re: (スコア:0)
地上でも隣の集落まで数百~数千km送電線引かなきゃ的糞田舎ではリスク承知で使ってるけどね
Mr.Fusion (スコア:1)
車型タイムマシンの安定稼働の為には必要な
技術なので開発を止めようとすると
未来から干渉が入るのではないでしょうか?
ごめんなさい (スコア:1)
やっぱり貼りたくなっちゃって。
チュルノブイリ-1型 [fc2.com]
テラヘルツ波? (スコア:0)
常温核融合と聞くと眉唾っぽいが、リンク先のExtremeTechの記事には、「テラヘルツ波を使って励起する云々」というような表現があるが.......
Re: (スコア:0)
テラヘルツ波を使うと眉唾っぽくなくなるという意味?
Re: (スコア:0)
永久機関に宇宙パワーをかけるとあらふしぎ
小型化 (スコア:0)
スマートフォンに載せられるようになれば国内でも流行るよ!>部門名
# 実際スマートフォンの電力問題は餓鬼の如く。
Re: (スコア:0)
載せてみたら手で持てないほど熱くなる端末ができましたとさ。
# いやマジで切実なんですよ、熱の問題は。電力の次に。
Re: (スコア:0)
つーか (スコア:0)
常温核融合の前に、
ふつーの核融合をさっさと実用レベルにすべきでしょ。
宇宙予算も科学予算も削られてやることないんかNASA。
Re:つーか (スコア:2)
熱核融合炉は国際共同の実験炉のiter [iter.org]が19年の初プラスマ目標に建設中やがな。(´・ω・`)
iterに付随して日本では18年運転開始予定の実験炉JT-60SA [jaea.go.jp]の組立が始まった [jaea.go.jp]ばかりだし。
と言うか米なんて熱核兵器のノウハウは在るけど熱核融合炉はレーザー核融合に入れあげて失敗したせいで日露欧(と言うか仏)に水を開けられてiterではおさいふ状態なのに実用化なんてとてもとても。
#iterではD-T実験が行われる予定なんだけど岐阜県土岐市のLHDみたいに誘致するだけしといて
#D-T実験はおろかD-D実験まで反対するなんて乞食行為 [chunichi.co.jp]が起きなきゃいいんだけど。
Re:つーか (スコア:1)
>ふつーの核融合をさっさと実用レベルにすべきでしょ。
NASAにだって……
出来ない事ぐらい……ある……
Re:つーか (スコア:2)
NASAねばならぬ
Re:つーか (スコア:1)
可能かどうかも分からないのに実用レベルにしろと言われてもなー
それ以前に一国でできる規模じゃないし
the.ACount
Re: (スコア:0)
NASAじゃなくて、ローレンス・リバモア国立研究所他が担当しています。
Re: (スコア:0)
なぜ家庭用? (スコア:0)
発電所形体のほうが
スケールメリットもあるだろうし
適切な管理が行えて良いと思うのだが
Re: (スコア:0)
NASAがやっているんですから、ガリレオ衛星の開拓村の家庭あたりで使うのでしょう。
Re: (スコア:0)
あくまで基礎研究だろ? (スコア:0)
いいじゃないか夢があって。
巨額の資金を食いつぶし、リスク以外何も見当たらない核燃サイクルを”国是”にしてるような国の国民に馬鹿にする権利はないと思う。
すぐ隣に核武装を国是にしている国もあるようだけど、どっちにしろやっていけるわけ無いだろ。