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サイエンス

NIMSが金を含む新しい超伝導体「SrAuSi3」の合成に成功 14

ストーリー by hylom
新しい理論へ 部門より
あるAnonymous Coward 曰く、

物質材料研究機構(National Institute for Material Science; NIMS)が、主成分に金が含まれる新しい超伝導体SrAuSi3の合成に成功した(プレスリリースマイナビニュース)。SrAuSi3では、従来型の超伝導体とは違うメカニズムによって超伝導が発現している可能性があるという。

普通の超伝導は、クーパー対と呼ばれる電子のペアの量子力学的な位相が揃うことで発現する。具体的には、結晶中を運動する電子と、結晶格子を構成する陽イオンの相互作用 (電子-フォノン相互作用) によって、結晶中を運動する2つの電子に間接的な引力が働き、2つの電子がクーパー対を作る。もともと電子はフェルミ粒子なので、通常は結晶中の最もエネルギーの低い状態 (基底状態) に多数の電子が落ち込むことはできないが、2つのフェルミ粒子からなるクーパー対はボーズ粒子なので、多数のクーパー対が同時に基底状態に落ち込むことができる。温度を下げていき、超伝導転移温度に達すると、基底状態に落ち込むクーパー対の数が劇的に増え、多数のクーパー対の量子力学的な位相が揃い、結晶全体が量子力学的な状態となるため超伝導が発現する。これが電子-フォノン相互作用による普通の超伝導である。

電子-フォノン相互作用によってクーパー対が形成されるためには、空間的な反転対称操作に対して、結晶中の電磁場が不変でなければならない。いっぽう、結晶場の空間反転対称性が破れており、かつ重い元素を含む系では、スピン-軌道相互作用と呼ばれる力が電子に対して強く働くことが知られており、最近ではスピン-軌道相互作用によっても超伝導が発現する可能性があることが話題となっている。すでに、CePt3Siという、空間反転対称性が破れており、かつ重い元素Ptを含む物質で超伝導の発現が報告されている。今回NIMSは、対称性の低い結晶構造をもつと考えられ、かつ重い元素Auを含むSrAuSi3を初めて合成し、確かに超伝導が発現することを確かめた。

詳細プレスリリースによると、NIMSはAu、Si、SrSi2を、60,000気圧、摂氏1,500度の下で化学反応させることで、SrAuSi3を合成した。超伝導転移温度は1.6ケルビンだった。

今回のような「空間反転対称性の破れた系における超伝導」の発現は基礎的にも興味深いが、応用的にも重要となる可能性がある。従来型の電子-フォノン相互作用による超伝導では、常磁性破壊効果と呼ばれる効果によって、強い磁場をかけると超伝導が壊れてしまうため、コイルの線材として超伝導体を使った数10テスラ級の強力な電磁石を作ることはできなかった。そのような超強磁場を作り出すためには、一度しか使えない上に瞬間的な磁場しか発生させることのできない破壊型の電磁石を用いるのが一般的である。一方、スピン-軌道相互作用由来の超伝導体は、従来型よりも外部磁場に強いことが期待されるので、安定な非破壊型超強力電磁石を作製できる可能性がある。ただ、今回合成されたSrAuSi3では、軌道破壊効果という別の効果によって0.2テスラ程度の弱い磁場をかけただけで超伝導が壊れてしまっており、さらなる研究が求められている。

この議論は賞味期限が切れたので、アーカイブ化されています。 新たにコメントを付けることはできません。
  • by Anonymous Coward on 2014年03月28日 6時13分 (#2570532)
    >SrAuSi3では、従来型の超伝導体とは違うメカニズムによって超伝導が発現している可能性があるという。

    不思議な力と言うやつですね
  • by Anonymous Coward on 2014年03月28日 6時48分 (#2570534)

    従来には無いメカニズムによる超電導物質の合成に成功したが、従来のものより低価格だとか・より高温で超伝導を示すとかの実用的な価値が現時点であるわけではない
    #素人相手にはこの程度の物言いでちょうど良いのではないか?

    • by Anonymous Coward

      でも、従来の超伝導での弱点の一つだった磁場に弱いということが克服される可能性が微レ存?
      #今回のは輪をかけて弱かったようだが

      #あと、「超電導」「超伝導」どちらかに統一しましょう(笑)

    • by Anonymous Coward

      この物質そのものに実用的な価値があるわけではないが、従来にはないメカニズムが実証されたのだから、そのメカニズムに基づいて考えれば新たな(より低価格だとか、より高温で超伝導を示すなどの、より実用的な)超伝導体の発明につながるかもしれない。

      • by Anonymous Coward

        この物質そのものに実用的な価値があるわけではないが、従来にはないメカニズムが実証されたのだから、そのメカニズムに基づいて考えれば新たな(より強い磁場でも超伝導を維持でき、強い電磁石を作れるという、より実用的な)超伝導体の発明につながるかもしれない。

      • by Anonymous Coward

        その解釈は分かるけど、そういうことを言うと元コメのいう素人さんが勝手に期待を大きくしちゃったり伝聞の過程で話がどんどん大きくなったりするから面倒だ、というニュアンスなのでは……。

        • by Anonymous Coward

          プレスリリースも垂れ込み文も長くて難しそうな内容だね
          素人には学術的には画期的だよ、だけど工学的な応用とかに繋がるのはまだまだ先の話だよってことが伝わればそれで良いと思うが
          #研究者から見て「正しい」プレスリリースが、マスコミや素人の求めるものと同じとは限らない

          • by Anonymous Coward

            プレスリリースも垂れ込み文も長くて難しそうな内容だね
            その程度しかコンテキストを共有できてない素人にまで無理に伝わらなくてもそれで良いと思うが
            # マスコミや素人が「わかった気になれる」まで話を丸めて、本来のターゲットに必要な情報が削ぎ落とされちゃ意味が無い

        • by Anonymous Coward

          >素人さんが勝手に期待を大きくしちゃったり

          STAP細胞が出てきた時、これでiPS細胞はお払い箱だ!って騒いでる人を見た
          実用性はまだ何も検証されてませんよと忠告したら、素晴らしいSTAP細胞を貶める敵だと認定された

  • by Anonymous Coward on 2014年03月28日 11時16分 (#2570653)

    新しい超電導の原理も気になりますが、素人の私には、この物質合成方法がとても気になります。

      >Au、Si、SrSi2を、60000気圧、摂氏1,500度の下で化学反応させる

    なんとなくですが、玉虫色の合金とか、透明な金属とか、そんなものが生まれたら楽しそうです。

    • by Anonymous Coward

      それではオリハルコンと名付けよう

  • by Anonymous Coward on 2014年03月28日 15時33分 (#2570841)

    超伝導に必要な温度がかかれていないみたいだけど、室温超伝導への足がかりにはなりそうなのかな?

    • by Anonymous Coward

      超伝導転移温度は1.6ケルビンだった。
      って書いてるのが読めんのか

      • by Anonymous Coward

        ケルビンを温度って認識できなかったとか?

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