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サイエンス

東北大学などの研究グループ、独自の開発指針による反強磁性的ハーフメタルの合成に成功 16

ストーリー by nagazou
合成成功 部門より
headless 曰く、

東北大学などの研究グループが独自の物質開発指針を基に、ハーフメタルの完全補償型フェリ磁性体 (HM-FCFM) を合成することに成功したそうだ (東北大学のプレスリリースJAMSTEC のプレスリリース論文)。

同じ大きさの磁気モーメントが交互かつ反平行に配列し、全体として磁化の生じない磁性体が反強磁性体だ。ただし、文字通りの反強磁性体は金属と絶縁体 (半導体) の両方の電子状態を併せ持つ磁性体であるハーフメタルとはスピン状態が異なる。一方、HM-FCFM は十分な低温下で反強磁性的な特徴を示しつつ、温度が上昇すると小さな磁化を示すようになる。HM-FCFM は長年探索が行われてきたが、これまでに確認されたのは 2 例のみだった。

今回、研究グループでは「遷移金属元素の荷電子数を合計で 10 にする」という独自の開発指針を基に、鉄・クロム・硫黄からなる化合物を合成した。この物質は低温で完全に磁化を消失する一方、250~325 K では強磁性的な特徴を示すようになり、300 K で保磁力は最大の 3.8T に達する。優れた特性を示す反強磁性的ハーフメタル物質の合成に成功したことで、これを利用した超高機能な電子デバイスの実現が期待されるほか、開発指針の信ぴょう性が実証されたことで、今後の物質探索・開発が高効率化することが期待されるとのことだ。

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  • 関連する説明 (スコア:5, 参考になる)

    by phason (22006) <mail@molecularscience.jp> on 2022年07月01日 11時25分 (#4280767) 日記

    ・状態密度
    金属中の電子は,ある程度のエネルギー範囲中に無数の軌道が存在することから,実質的に連続準位(*)とみなせる電子状態となっています.

    *分子などでは電子の入れる状態=軌道が離散的で,電子はとびとびのエネルギーしか取れないのに対し,金属中では次の準位までのエネルギー間隔が無視できるほど狭く,連続的になっている.詳しくはバンド理論を学ぶ必要あり.

    このような金属中の電子の状態の表現のしかたとして,状態密度というものが使えます.
    これはある狭いエネルギー範囲に,どれだけの状態(=電子が入れる席)があるか,というものを表した図です.例えば以下のような感じ.
    金属中の電子は,あるエネルギー以下まで詰まっており,この「ここまで詰まっている」というエネルギーをフェルミエネルギーと呼ぶ(■が電子が詰まっている状態.□は電子が入れる空席はあるが,電子が入っていない状態).

    上向きスピンの電子の状態数   例えばここがフェルミエネルギー
    ↑               ↓
    |          ■    |
    |          ■■   |
    |  ■     ■■■■■  |      □□□
    | ■■■  ■■■■■■■■■|□    □□□□□
    |■■■■■■■■■■■■■■■|□□  □□□□□□□
    ------------------------------------------------------------->エネルギー
    |■■■■■■■■■■■■■■■|□□  □□□□□□□
    | ■■■  ■■■■■■■■■|□    □□□□□
    |  ■     ■■■■■  |      □□□
    |          ■■   |
    |          ■    |

    下向きスピンの電子の状態数

    この金属に磁場をかけると,伝導電子のスピンの向きが磁場に対し不安定な向き(伝導電子のスピンが作る磁力が,磁場と反発する向き)なのか,その正反対の向きなのかによってエネルギーが上下するため,電子のスピンの向きによってバンドがズレてきます.

    上向きスピンの電子の状態数   例えばここがフェルミエネルギー
    ↑                ↓
    |             ■  |
    |             ■■ |
    |     ■     ■■■■■|        □□□
    |    ■■■  ■■■■■■■|□□□    □□□□□
    |   ■■■■■■■■■■■■■|□□□□  □□□□□□□
    ------------------------------------------------------------->エネルギー
    |■■■■■■■■■■■■■■■■|□  □□□□□□□
    | ■■■  ■■■■■■■■■■|    □□□□□
    |  ■     ■■■■■   |     □□□
    |          ■■    |
    |          ■     |

    下向きスピンの電子の状態数

    この結果,伝導電子の↑の電子の総数と↓の電子の総数に差が出る場合があります.電子のスピンの向きは,電子を棒磁石とみなした時の向きに対応しますので,これは要するに伝導電子の作る磁力が偏る(=伝導電子全体として,特定の方向を向いた磁力が強くなる)ことを意味します.
    特に↑の電子の総数と↓の電子の総数の差が非常に大きくなるようなバンド構造の場合(=もともとのフェルミ面付近に非常に大きな状態密度をもつ場合),伝導電子のスピンの偏りが生み出す磁場自体がバンドのずれを引き起こすのに十分な強さになる,「自分たちの作る磁場によるバンドのずれが,十分な磁場を作って自分たち自体を固定する」という状態になります.これがいわゆる鉄などの伝導電子による強磁性(遍歴電子による強磁性)です.

    ・ハーフメタル
    自分自身の磁場などにより↑スピンの電子の状態密度と↓スピンの電子の状態密度がズレた場合,時としてフェルミ面付近(※実際の電流にかかわるのは,このフェルミ面付近の電子に限られる)で一方の電子のみが状態密度をもつ場合があります.こういった場合,伝導電子のうち片方のスピンの電子のみが電流として利用でき金属伝導を示し,逆向きスピンの電子にとってはフェルミ面がちょうどギャップのところにあるので絶縁体のように振る舞います.
    こういう物質をハーフメタルと呼びます.

    上向きスピンの電子の状態数   例えばここがフェルミエネルギー
    ↑                ↓
    |              ■ |
    |              ■■|
    |      ■     ■■■■|□      □□□
    |     ■■■  ■■■■■■|□□    □□□□□
    |    ■■■■■■■■■■■■|□□□  □□□□□□□
    ------------------------------------------------------------->エネルギー
    |■■■■■■■■■■■■■■■ |  □□□□□□□
    | ■■■  ■■■■■■■■  |   □□□□□
    |  ■     ■■■■■   |    □□□
    |          ■■    |
    |          ■     |

    下向きスピンの電子の状態数

    上図の場合,↑スピンの電子にとっては「バンドの途中にフェルミ面がある=金属」であるのに対し,↓スピンの電子にとっては「フェルミ面がバンドギャップの中にある=絶縁体」となります.
    つまりこの物質に電流を流すと,↑スピンの電子のみが流れることができます.

    このようなハーフメタルを使うと,単に電流を流すだけで「一方のスピンだけをもった電流」を取り出すことができます.
    このようなスピン偏極した電流は,例えばトンネル磁気抵抗効果(HDDの読み取りなどでも使用される,上下の層の磁化の向きにより伝導性が大きく変わる現象)であるとか,もしかしたら将来実現できるかもしれないスピントロニクス素子(電子の電荷だけではなく,そのスピンも情報処理の要素として使用する素子)への利用などが期待されており,容易にスピン偏極した電流が得られるハーフメタル素子はそういった用途への利用が期待される材料になります.

    ・完全補償型ハーフメタル
    上記の説明にあるように,「自分自身のスピン分極によりバンドがズレ,それによってハーフメタルになる」というメカニズムのため,通常のハーフメタルは強磁性体となります.
    しかし強磁性体は物質全体として大きな磁化をもつため周囲に磁場が漏れ,当然ながら近くに置かれた別の強磁性体と干渉します(両方の磁場の向きが揃おうとするので,勝手に周囲の磁化の向きが変化する可能性がある).
    では,外部に磁場の漏れない反強磁性体(↓と↑が同数あり,トータルでの磁化がゼロ)というのは不可能なのでしょうか?
    単純に考えると,反強磁性体ではトータルでの磁化が無いのでバンドをシフトさせる駆動力が無く,実現できなそうに思えてしまいます.

    確かに,すべての場所でスピンが打ち消されている反強磁性体でハーフメタルを作るのは無理なのですが,「物質の内部で,局所的にはスピンの偏りがあるけど,物質全体ではスピンが打ち消しあって磁化が無い」という物質なら作れることが以前から理論的には提唱されています.
    例えばAとB,2種類の金属の合金を用いると,異なる金属元素からは異なる軌道が違う位置にバンドを作るので,Aの原子の部分では↑の電子密度が高く,Bの原子の位置では↓の電子密度が高い.でも物質全体ではトータルの磁化はゼロ,というものを作れます.
    しかもこの場合,Aの原子の軌道由来のバンドは「↑の電子の作る磁場によるシフト」を起こし,Bの原子の軌道由来のバンドは「↓の電子の作る磁場による逆向きのシフト」を起こしますので,トータルの伝導電子の↑と↓の電子の状態密度に差が出ます.
    (ということは,物質全体として磁化が無いのに,ハーフメタルが作れる)

    こういった物質を使うと,漏れ磁場を気にせず,スピン偏極率ほぼ100%のスピン偏極した電流(=一方の向きのスピンをもつ電子だけからなる電流)を得ることが可能になります..

    • by Anonymous Coward

      詳しい解説ありがとうございます。
      よく分からないなりに理解できました。フェルミエネルギー云々が面白かった。導体と絶縁体ってそこが違うのか…。

      光でいう偏光フィルタみたいな動作をする物質作れたよ、ってことなのかな。そして高密度に詰め込めると。
      光の偏光で液晶作れたように、スピン偏極でも色々できるんだろうね。

  • by Anonymous Coward on 2022年06月30日 18時18分 (#4280421)

    もっとお猿さんにもわかるように、何が凄いのかを説明しておくれやす

    • by nim (10479) on 2022年06月30日 18時32分 (#4280431)

      ウキ、ウキー、ウキッ。
      ウキッキ、ウキーウキー、ウッキキ。
      ウキキッ、ウキー、ウキ、ウキッッ。
      ウキ、ウキッキキ、ウッッキ、ウキ。

      親コメント
      • by Anonymous Coward

        ウキ?ウキキキーッ!

      • by Anonymous Coward

        ウッキウキやな自分
        暑いからな

    • by youbun68 (48392) on 2022年06月30日 20時33分 (#4280501) 日記

      ハーフメタルっていう[金属]と[絶縁体(又は半導体)]の両方の電子状態を併せ持つ磁性体があるんだって。
      ハーフメタルを使うと低消費電力・高密度・高速な磁気メモリっぽい物が作れるらしいよ。

      でもね、今まで作れたハーフメタルは強磁性体で、作ったデバイスの外に磁場が漏れてマズかったんだって。
      そしたらね、今回東北大の先生がね、反強磁性的ハーフメタルってのを開発してさ、優れた特性なのにデバイスの外に磁場が漏れないんだって。
      スゲーだろ?
      だから、ハーフメタルの実用化に向けたハードルが1個乗り越えられたって感じかな?

      # ちなみに反強磁性っていうのは、磁性体なのに内部で磁気モーメントが交互に反対方向に配列していて
      # しっかり磁気があるのにその物質の外から見ると磁気が無いみたいに見えるらしいよ。

      親コメント
      • by Anonymous Coward

        わかった!BUBCOM80に積まれていたバブルメモリのことですね?

        • by Anonymous Coward

          ばぶるめもりのあくむはやめてー
          # あれは絶対に時代を先取りしすぎたと思う

        • by Anonymous Coward

          プレスリリース中の図でも、ビットライン/ワードラインってあるので実は似てるんじゃないかという…。

      • by Anonymous Coward

        ハーフメタルというのがキーのようだね。

        磁気抵抗メモリってのがある。
        固定された磁石と、向きがフリーな磁石を重ねて、フリーな磁石の向きを電流制御で変えてデータを記録、
        読み出しは磁場の向きが一致してる時と逆の時で電気抵抗が異なることを利用して読み出す。

        これの微細化発展系として、スピン注入メモリというのがある。
        磁石の向きを変える時、電流による磁場を利用するのではなく、スピンの向きを揃えた電子を流し込むことで向きを変える。
        スピンの向き=磁場の向き、で良いのかな…。電子のスピンを利用するのでスピントロニクスというジャンルらしい。

        ハーフメタルとい

    • by Anonymous Coward

      phason先生にお縋りするしか…。

      高密度に集積できるので、超高密度磁気メモリとか、あるいはHDDのヘッドとか? に使えそうってことっぽい。
      けど、温度で動作が変わるみたいだけど、問題無いんだろうか…。
      今回の物質がどうのというより、物質探索方法の方向性が確認できた、ってのが最大のトピックなのかもね。

  • by Anonymous Coward on 2022年06月30日 18時31分 (#4280430)

    珍しいかもしれんがだから何くらいなのか

  • by Anonymous Coward on 2022年06月30日 21時37分 (#4280528)

    反重力か?

  • by Anonymous Coward on 2022年07月01日 10時51分 (#4280738)

    オフとぴぎみですが。
    理研は2022年度末に600人リストラ予定
    https://news.yahoo.co.jp/byline/enokieisuke/20220402-00289482 [yahoo.co.jp]
    https://news.yahoo.co.jp/articles/f53f3a2ecbe3256181c18c4cfbde4a58d76eb020 [yahoo.co.jp]

    「2013年に改正された労働契約法では、継続して5年間有期雇用契約が更新された労働者に対し、無期雇用への転換を申し出る権利(無期転換権)が生じる。「無期転換ルール」、いわゆる「5年ルール」がある」

    それを嫌って5年で首を斬られるのではという不安に対して

    「研究職などはこれを10年に延長」
    その10年が2023年にくると。そもそも理研の8割が非正規雇用というのがどうなんだとも思います。
    よくドラマなどで研究者が成果を出せずに焦って事件を起こすみたいなのがありますが、そういえばSTAPもそれですかね。
    ちょっと違うか。
    ある程度やって目処が立たなければ次へ行くという、ごく普通のことがやりづらい環境ってどうなのとは思います。
    日本は基礎研究が弱いと言われがちですが、なんとか良い方向に行って欲しいなと思います。

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犯人は巨人ファンでA型で眼鏡をかけている -- あるハッカー

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