絶縁体を利用して電気信号を伝達する 22
ストーリー by hylom
流れないのに流れる 部門より
流れないのに流れる 部門より
Anonymous Coward 曰く、
東北大金属材料研究所などの研究チームが、絶縁体を使って電気信号を伝達することに成功したそうだ(時事ドットコムの記事)。
記事によると、伝導体に電流を流す従来の電気信号ではなく、電子のスピン波というものを利用するとのこと。伝導体に電流を流す方法と異なり伝達によるエネルギーの損失が小さく、集積回路クラスなら消費電力は約80%削減できる計算だという。
電子回路の消費電力を大きく落とすブレイクスルーになれば面白いが、ひとつ気になるのは、昨今の電気信号はそもそもほとんど電流を流していないのでは?と思っていた事。手元にあるIC部品の資料では、I/Oピンの入力電流は一桁μA程度だし。多くの場合、ICの消費電力は入出力信号ではなくコア駆動のためだとの認識ですが、この技術、入出力信号だけの話ではないのでしょうかね?
スピントロニクス (スコア:5, 参考になる)
>この技術、入出力信号だけの話ではないのでしょうかね?
ちょっと長くなりますがご勘弁を.
この手の技術,最近流行のスピントロニクス(spintronics)と呼ばれる技術の一種です.
この語はspin + electronicsという成り立ちから予想できるように,これまで主に電荷しか使ってこなかった電子の性質にプラスして,スピン(要は電子自身が小さな磁石と働く性質で,スピンの方向はその磁極の向きに対応)も使ってやろう,というものです.
例えばすでに実現している代表的なデバイスとしてはトンネル磁気抵抗効果を使ったHDDのヘッドなどが上げられます.これは二つの導電性の強磁性体(しかもそのうち一方はHDDの記録層からの漏れ磁場で磁化の方向が容易に変わる)が薄い絶縁膜で隔てられたもになります.
強磁性体内には強い磁場が存在しますので,その中の伝導電子のスピンが磁場と同じ方向を向いているのか,逆方向を向いているのかで電子のエネルギーが大きく異なります.絶縁膜の両側の強磁性体が同じ方向に磁化していると,ある方向を向いたスピンを持つ電子のエネルギーは両方の強磁性体で等しくなります.
一方,磁化の方向が両側で異なると,片側の強磁性体内ではエネルギーの低かった電子が,絶縁膜をトンネルして逆側の強磁性体内に入った瞬間にエネルギーが高くなります(スピンの向きが逆なら高エネルギーから低エネルギーへ).
トンネル効果においては,トンネルの前後でエネルギー差が大きければ大きいほど指数関数的にトンネル確率が小さくなりますので,二つの強磁性体の磁化の向きが等しいときには大きなトンネル電流が流れ,違うときには小さな電流しか流れません.このように,スピントロニクスを用いると電流と磁性を簡単に結びつけることができるわけです.
電流は電圧によって容易に発生させられますが,磁性(しかも局所的でそれなりに強い)というのはなかなかコントロールが難しいためミクロな領域では(コントロール可能な対象としては)これまであまり利用されてきませんでした.しかし,スピントロニクスは,何とかして電流とスピン(=磁性に関連する性質)を結びつけて,両者を自由にコントロールしよう,という技術と言えます.
では,何故そんな技術を開発するのか,という点ですが,一つは前述のTMRヘッドのように,強磁性体の磁化と電流を結びつけられるという利点が挙げられます.(何らかの方法で)強磁性体の磁化を電流でコントロールできれば,その磁化を保持可能な記憶として利用できるわけです(これがまさにMRAM).その場合,電流で磁性をコントロールする素子(スピントロニクス素子)が必要となります.
二つ目は,今後もしかしたら実用化することがあるかも知れない(無いかも知れない)量子コンピュータでの利用です.量子コンピュータの演算素子に関しては色々な案がありますが,有力なものの一つが電子のスピンを量子ビットと見なす,というものです.この場合問題になるのは,いかにして電子のスピンをコントロールするか(初期状態のセットや演算,読み出しなど)という点です.実験なら外部磁場等でコントロールすればよいのですが,万一実用と言うことになるなら現在の半導体素子のように電流で読み書き・コントロールできないと普及は難しいでしょう.その解決にスピントロニクス素子(電流でスピンをコントロール,もしくはその逆を行う素子)が使えるのではないかと考えられていますし,いくつかの基礎的な結果が報告されています.
そして三つ目,まあある意味一番大きな理由ですが,「何か新しいアイディアが出てきて面白そうだから,頭ひねって何か作ってみよう」というものです.研究者に対して,「新しいこんな性質を使うってアイディアがあるんだけど」と振るのは,子供におもちゃを与えるのと一緒です.何に使うとかは二の次で,とりあえず色々作ってみるわけです.(その中から使えそうなものが洗練されていき,場合によっては利用されるかも知れない)
そんなわけで,現状この研究は,「電気が流れないのに電流の情報を伝える素子が出来るって理論の人が言うから作ってみたら動いた.スゲェ!」とかまあそんなノリです.すぐに何かになる,というわけではありません.まあ基礎研究ですしね.
ただ,原理的にはスピン主体での論理回路というものも構築可能なはずですので,外部とのIOは取り扱いの楽な電流でやって,内部的な情報伝達・情報蓄積・演算(場合によっては量子演算も)はエネルギーロスの少ないスピン流で,というものが実現する可能性が無いわけではありません.(まだまだ基礎研究なんで凄く遠いけど)
思いつきで言うけど (スコア:4, おもしろおかしい)
損失が少ないということだからスピーカーケーブル等に使ったらいいかもしんないですね。
ピュアオーディオ的なかんじで。
絶縁したはずなのに (スコア:4, おもしろおかしい)
連絡をとってるなんて、これじゃ復縁体じゃないか!
Your 金銭的 potential. Our passion - Micro$oft
Tsukitomo(月友)
ニュースリリース (スコア:3, 参考になる)
東北大http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2010/03/press20100311-01.html [tohoku.ac.jp]
AC 曰く…? (スコア:3, 参考になる)
(形式的でも) AC タレコミならそのユーザへのリンクははずしたほうが良いんじゃ?
それはさておき、phason 氏の日記 [srad.jp]にコレについての解説/コメント
と論文へのリンクがあります。
Re:AC 曰く…? (スコア:1)
タレコミで名前もURIも任意にできるので、そもそもまったく関係ないリンク先って可能性もあるわけですが、そういう形式でのタレコミであればもうしょうがないと思います。他人へのリンクだとしてもこれだけだと悪質とも判断できないですし。
LIVE-GON(リベゴン)
ノイズに弱そうですよね (スコア:1, おもしろおかしい)
ICのI/Oピンの入力電流 (スコア:1, 参考になる)
それはあくまでも直流電流(CMOSデバイスの入力リーク電流)のスペック
信号伝送の際には配線の浮遊容量やICの入力容量の充放電のためスパイク状の電流が流れる
(だから入力電流一桁μAの入力ピンを駆動するための出力ピンの出力電流の規格はmAオーダーになっている)
スイッチングのたびにジャブジャブ電流が流れるとノイズの問題があるので、現在は高速信号伝送には小振幅の差動伝送(スイッチング電圧が低い)を用いるのが主流
今回の技術はさらにその先を考えたもので、今のところはまだ実用化レベルのものでは無い
中性子みたいな信号ですね (スコア:0)
それどころか一直線にすっ飛んでいくことしかできないではありませんか
何の役に立つの?
Re:中性子みたいな信号ですね (スコア:2, 参考になる)
特別な磁性を持った絶縁体だとスピン流を乱さず流すという話で、スピン流を絶つことは容易です。
Re: (スコア:0)
消費電力 (スコア:0)
集積度の低い単機能のICなら消費電力は低いでしょうが
CPUとかだと各電圧(12V/5V3.3V)合計で10A以上が
必要になりますよ。
一桁μA (スコア:0)
一桁μAと聞いて、とてつもなく大きな電流だと感じた人。
Re:一桁μA (スコア:1)
私も。普段使っている装置の電流は、MAX流れまくって2μAです。普通はpA程度。
mAとか流れたらなんか空恐ろしい。体の危険も感じまする。
トンネル効果よりって事??? (スコア:0)
フォトカプラ (スコア:0)
フォトカプラも絶縁体を利用して(代わりに発光受光を利用して)
電気信号を伝達しますね。
Re: (スコア:0)
ロスの少ない信号線としてはすでに光ファイバがあるしねえ。
光コンピュータなんて話もあったけど微細化できるかどうか
がポイントかな。
Re: (スコア:0)
Re:フォトカプラ (スコア:1)
光の波長は屈折率しだい。
近頃は非常識な屈折率の材料もあるようで・・
the.ACount
Re: (スコア:0)
近接場光を使えば出来るよ!
波数が虚数になるし。
#近接場光型の光集積回路の研究をしてる人はすでにいた気がするなあ。
ああ (スコア:0)
さすがアレゲなネタが好きな憂国の士が集うスラド (スコア:0)
国産の先端電子材料技術かつ専門的すぎるハードウェアのネタは全く盛り上がらない!