ペスト菌の DNA、600 年間で変化なし 17
ストーリー by reo
まるで成長していない…… 部門より
まるで成長していない…… 部門より
jonykatz 曰く、
ペスト菌の DNA は、この 600 年間でほとんど変化していないことが分かったそうだ (ナショナルジオグラフィック日本語版の記事より)。
ロンドンにある 14 世紀半ばの黒死病患者の墓地から人骨を掘り出し、歯 46 本と骨 53 本から採取した菌を調べた結果、遺伝子的には過去 600 年以上の間、ペスト菌は大きく変化していないことが明らかになったとのことである。
ペスト菌のゲノムが変わっていないという事実から、ペストが昔のように大流行を起こさないのは、現代の医学知識や人々の感染症への抵抗力が奏功している可能性を示唆しているとことである。また、変化が遅い理由としてはインフルエンザのように共存する複数の系統がないため、直線的にしか進化できないためのようだ。
元論文はこちら (スコア:5, 参考になる)
http://dx.doi.org/10.1038/nature10549 [doi.org]
記事の内容に関してですが、逆転写を行う上に細胞内で増殖するインフルエンザウィルスと比べるのはちょっとどうかと思います。逆転写はエラーが生じやすいし、ウィルスなら細胞内で異なる系統のゲノムが出会いやすいでしょう。細菌だと多重感染して宿主体内で出会っても、細胞壁という超えなくてはならない壁がありますので、系統間ゲノム組換えの難易度ははるかに高いはず。とは言え、大腸菌やその他細菌と比べても遅いとは思うので、重要な結果だと思います。
あと、1系統しかない、というのは間違いでは。論文の図を見る限り、変異は少ないですけど一応分かれていると思います。「いやこれは分かれているというほどの変異量ではない」という見方もできなくはないですが、系統樹の分岐の支持率は高いですね。著者達も論文中でdifferent lineagesという言葉を使ってます。ただ、変異箇所ばっかり集めて描いているんでかなり過大評価されている可能性は排除できませんけども。
Re:元論文はこちら (スコア:1)
ちょっと誤解があるようなのでコメントを.
まずインフルエンザは逆転写を行いません.またペスト菌の変異率が大腸菌よりも際立って遅いということもありません.
1系統しかない,というのは今回複数のサンプルを集めた中で,現在知られているペスト菌が14世紀のペスト菌の祖先であるという意味です.DIfferent lineageについての言及はペスト菌でみられた染色体レベルの大きな変異は他の系統の染色体を取り込んだりした(水平移行,例えば赤痢菌毒素を取り込んだO157のように)のではなく,同じ系統の細胞同士あるいは同じ細胞の中で起きたものであるという意味で,今回解読したペスト菌との関係で述べたものではありません.
また変異箇所ばかりあつめている,というのは正確な言い方ではなく,今回の研究ではゲノム全体を解読しており,現在のペスト菌ゲノムとの系統関係を調べるときに違いのある場所だけを集めて系統樹作成用のソフトウェアにかけたということです.共通している部分は計算する意味がないですから.
kaho
Re:元論文はこちら (スコア:1)
誤解があるようですが、共通している部分を計算することに意味はあります。変異箇所を集めて系統解析を行うと、必ず分岐の信頼性は過大評価になる、という性質があるからです。まぁそんな性質は一部の系統学者しか知らないでしょうが、ブートストラップリサンプリングの際に各変異が100%サンプルされるようになるので当たり前ですね。ただMCMCのときにはそういうわけではないですが、MCMCによる系統推定では変異箇所だけを集めなくても信頼性が過大評価されるという性質が知られていますので、今回の場合は変わりません。
それはさておき、インフルエンザはRNAからRNAを合成するタイプでしたか。ご指摘ありがとうございます。てっきり逆転写でDNAを作るタイプだとばかり思っていました。RNAからRNAを合成する酵素のエラー率はどの程度なのか気になるところです。
different lineagesという表現は、人感染型ペストのbranch 1と2に対して著者達は用いており、少なくとも著者達は1系統しかない、という認識ではないでしょうね、ということです。たぶん記者は分かりやすくするつもりでそういう表現にしたのでしょうけど。「現在知られているペスト菌が14世紀のペスト菌の祖先」は「現在知られている(人に感染する)ペスト菌が14世紀のペスト菌の子孫」の書き間違いでいいですかね? しかしまぁ論文に書いてあることは「系統間の組換えがない」って点ですよね。組換えがない理由が相手となる「別系統」がないからだという書き方は明らかに誤解を生むでしょう。論文にはそんな記述はないはずです。
Re:元論文はこちら (スコア:1)
系統樹作成の方法について解説有り難うございます.
>組換えがない理由が相手となる「別系統」がないからだという書き方は明らかに誤解を生むでしょう。
私はそう書いたつもりはありませんが,ここで言う「系統」というのがこのストーリーで言っている「系統」か,論文で触れられている現在のペストの「系統』かで整理しないと話が通じませんね.
正確ではないでしょうが前者は種で後者は亜種と言い換えれば恐らくお互い誤解はなくなると思います.
私が言ったのは亜種間での組換えの証拠はないという論文の記述であり,原因ではなくただの観察の結果です.
kaho
Re:元論文はこちら (スコア:1)
墓地の人骨って外界と切り離された環境として十分なのか? (スコア:1)
墓地の人骨というのは600年前のペスト菌が変化せずにいられる環境なのか
どうか言及されているかも知りたい。
少なくとも純粋培養出来る環境ではない気がするのだが。
あくまで二つの環境のゲノムの差がほぼないという情報が手に入っただけ、
ではない点について補足があるとうれしい。
Re:墓地の人骨って外界と切り離された環境として十分なのか? (スコア:1)
変化したとしたら、比較した物と差がないという結果にはならないはずですよ。
両方変化して、変化の仕方が一致しなければならないですから。
Re: (スコア:0)
> 600年前のペスト菌が変化せずにいられる環境なのか
もっともな視点だとは思いますが、仮に変化するような環境だったら現代のペストと同じゲノムが検出されたりはしないんじゃないかな…。
Re: (スコア:0)
それよりペスト菌が生き残ってるなら、根絶されたという天然痘のウイルスも人骨の中で生き残っているではないかと気になる
もっともウイルスは単独では増殖できないそうだが、ならば骨の中でペスト菌に天然痘ウイルスが感染して増殖するなんてSF的な心配をする必要はないのか?
Re:墓地の人骨って外界と切り離された環境として十分なのか? (スコア:4, 参考になる)
増殖に必要な栄養さえあれば増殖できる細菌類とは異なり、
ウィルスは宿主の生きた細胞の分裂能力を利用して増えるので、
仮に死体の骨に天然痘ウィルスが付いていたとしても、増殖できるわけがありません。
また、ウィルスは生きた細胞なら何でも入り込めわけではなく、
特定の種類の細胞にしか入り込む事が出来ません。
エイズウィルスは、免疫細胞、肝炎ウィルスは肝細胞、インフルエンザウィルスは呼吸器の粘膜細胞などに感染しますが、
それは、上記のウィルスがそれぞれ併記した特定の細胞のみに有効な鍵を持っているからです。
Re: (スコア:0)
SF的な心配をしなくても良いことが分かって安心しました........
Re:墓地の人骨って外界と切り離された環境として十分なのか? (スコア:1)
> SF的な心配をしなくても良いことが分かって安心しました........
安心したのもつかの間で
次は未開の森を切り開いてマールブルグやエボラが出てきたように、墓場(日本だと火葬だけど海外は土葬おおいし)を暴いてウィルスを取り出すような行為でテロに及ぶような状況を心配してくだされ。
っていう展開のドラマはアリって事が科学的に後押しされたってことだよね?
Re:墓地の人骨って外界と切り離された環境として十分なのか? (スコア:1)
墓場の人骨では、細菌もウィルスも増殖は出来ないでしょうが、適切な条件が整えば
増殖できるような活性を保ったまま眠っている可能性はあると思います。
今回のような調査なら DNA鑑定に支障の無い範囲で、加熱なり消毒液なりを併用して
いると考えられます。
しかし、テロや盗掘や土地開発で墓があばかれた場合は怖い気がします。
無害の腐敗菌によって、骨と一緒に総て分解されているのでなく、少なくともDNA鑑定
可能なレベルは残っているわけです。
それとも、世代交代できない状態で長期間閉じ込めておけば、自然放射線で被曝して
案外はやく増殖できない程度に傷つくのでしょうか?
と言うことで、
福島で回収した汚染物は、土葬がある墓地へ(ロンドンにも)送ってあげよう。
Re: (スコア:0)
自己増殖できないウィルスと、細菌の区別も付かんのか?このmasasというIDは。
Re: (スコア:0)
ペスト菌 「バカめ、私たちが600年間何も学ばなかったと思うのか。あれはただの囮だ。」
まあ (スコア:0)
ぼちぼちでんがな
ある程度増殖する機会が必要? (スコア:1)
「進化するにはある程度増殖する機会が必要だけど、ここ600年ほど流行する機会が無かったので、進化できませんでした。」ってこと?