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今回の研究はそれには至っていないが、キースト博士は「脂味」の存在を支持する証拠は続々と見つかっているとしている。
と書いてあるので、まるでKeastの研究が先行しているように読めるかもしれないけど、ぎりぎりの表現で上手いこと書くなぁ、という感じですね。 「脂味」については、伏木先生とかがやってるCD36の研究の方が先行してて、ヒトが感知する「味」かどうか、ということより先に、受容体候補の方が見つかってるわけです。順番的に言うと、これまで見つかってきた「味」とは逆の流れ…つまり、他の味は「こういう『味』があるよね→知覚するメカニズムはどうなってる→味細胞/味神経を介してるから『味覚』でOkだね」で見つかり認められてきたのが、「味細胞に、脂質をを知覚するメカニズムがあるよ→これって『味』かも」という形で見つかった、ということになってきてるわけです。 味覚の研究というのは(嗅覚もですが)厄介な部分があって、単に細胞/神経伝達といった生理的なメカニズムによる部分だけでなく、ここの図 [google.com]に示している下の部分、つまり知覚する本人の食習慣や食文化、それまでの経験に依存するところが非常に大きいです。「うま味」というのが、欧米でなかなか認められなかった/認められるのに時間がかかったのもこれによるもので、本人がそれまで経験的に「味」と感じて来なかった、「味」と意識してこなかった部分は、「味」そのものとして認められにくいわけです。 親コメント [srad.jp]の洋・中・和での、「味」の数というのは(恥ずかしながら初見だったのだけど)、すなわち西洋料理/中華料理/和食の世界で、意識されてきた「広義の味」だと捉えることが出来ます(このうち「辛み」は味覚に寄らないものなので「狭義の味」には含まれない、とされてますが)。 ただ、恐らく(食の文化人類学方面の知識がないので、恐らくですが)、「脂味」というものを、そのものズバリ「味」として考え、表現してきた地域はないんじゃないかなぁ…と。そういう点から言うと、脂味は「味覚」である可能性はある(受容体の存在に加えて、後はそこからの神経伝達と認知があるとヒトで証明できれば、「味覚」と言ってよさそう)が、「味」としては誰もまだ気付いてなかったもの(=新しい「味」である)可能性があるわけです。 料理の味と油脂の関係については、例えば中華料理では「コクを出すために」油を入れたりするし、また料理全般に揚げ物やフライに使う油の種類が味に影響することは、まぁ周知のことだと言っていいとは思います。ただ、あくまで個人的な考えですが、これらの「油脂が料理の味に与える影響」を、すべてCD36を介する味覚に帰結させていいかと言われると疑問があります。CD36は、元々LDLなどに対するスカベンジャー受容体として見つかった(で、その生体内の分布を調べたら、味蕾で多く発現してた)ものなので、口の中でミセル状に存在してる油脂とは、まぁ反応するだろうと予想します。一方、岡大歯学部の松尾先生のレビュー [nih.gov]にまとまってますが、油脂は唾液タンパク質(proline rich proteins, PRPs)と結合して可溶化されていることも知られてるので、このことが味の感じ方にどう影響するのか、という点が興味深いところです。PRPsの役割が、単に疎水的に口の中にへばりつく油脂を洗い流すだけなのかもしれませんが、ひょっとしたらそれ以外に味に影響する部分もあるかもしれないので。
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と書いてあるので、まるでKeastの研究が先行しているように読めるかもしれないけど、ぎりぎりの表現で上手いこと書くなぁ、という感じですね。
「脂味」については、伏木先生とかがやってるCD36の研究の方が先行してて、ヒトが感知する「味」かどうか、ということより先に、受容体候補の方が見つかってるわけです。順番的に言うと、これまで見つかってきた「味」とは逆の流れ…つまり、他の味は「こういう『味』があるよね→知覚するメカニズムはどうなってる→味細胞/味神経を介してるから『味覚』でOkだね」で見つかり認められてきたのが、「味細胞に、脂質をを知覚するメカニズムがあるよ→これって『味』かも」という形で見つかった、ということになってきてるわけです。
味覚の研究というのは(嗅覚もですが)厄介な部分があって、単に細胞/神経伝達といった生理的なメカニズムによる部分だけでなく、ここの図 [google.com]に示している下の部分、つまり知覚する本人の食習慣や食文化、それまでの経験に依存するところが非常に大きいです。「うま味」というのが、欧米でなかなか認められなかった/認められるのに時間がかかったのもこれによるもので、本人がそれまで経験的に「味」と感じて来なかった、「味」と意識してこなかった部分は、「味」そのものとして認められにくいわけです。
親コメント [srad.jp]の洋・中・和での、「味」の数というのは(恥ずかしながら初見だったのだけど)、すなわち西洋料理/中華料理/和食の世界で、意識されてきた「広義の味」だと捉えることが出来ます(このうち「辛み」は味覚に寄らないものなので「狭義の味」には含まれない、とされてますが)。
ただ、恐らく(食の文化人類学方面の知識がないので、恐らくですが)、「脂味」というものを、そのものズバリ「味」として考え、表現してきた地域はないんじゃないかなぁ…と。そういう点から言うと、脂味は「味覚」である可能性はある(受容体の存在に加えて、後はそこからの神経伝達と認知があるとヒトで証明できれば、「味覚」と言ってよさそう)が、「味」としては誰もまだ気付いてなかったもの(=新しい「味」である)可能性があるわけです。
料理の味と油脂の関係については、例えば中華料理では「コクを出すために」油を入れたりするし、また料理全般に揚げ物やフライに使う油の種類が味に影響することは、まぁ周知のことだと言っていいとは思います。ただ、あくまで個人的な考えですが、これらの「油脂が料理の味に与える影響」を、すべてCD36を介する味覚に帰結させていいかと言われると疑問があります。CD36は、元々LDLなどに対するスカベンジャー受容体として見つかった(で、その生体内の分布を調べたら、味蕾で多く発現してた)ものなので、口の中でミセル状に存在してる油脂とは、まぁ反応するだろうと予想します。一方、岡大歯学部の松尾先生のレビュー [nih.gov]にまとまってますが、油脂は唾液タンパク質(proline rich proteins, PRPs)と結合して可溶化されていることも知られてるので、このことが味の感じ方にどう影響するのか、という点が興味深いところです。PRPsの役割が、単に疎水的に口の中にへばりつく油脂を洗い流すだけなのかもしれませんが、ひょっとしたらそれ以外に味に影響する部分もあるかもしれないので。