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サイエンス

スーパーつるつるな表面加工、ハーバード大が開発 68

ストーリー by reo
よし、次はぺたぺただ… 部門より

capra 曰く、

ハーバード大学の物質科学者らが世界で最も滑る表面加工を開発したそうだ (The Telegraph の記事本家 /. 記事doi:10.1038/nature10447 より) 。

この表面加工は食虫植物であるウツボカズラにインスピレーションを受けて開発されたとのこと。ウツボカズラの壷型の葉の内側は水で満たされたスポンジのようになっており、これが壷に落ちた虫の足の油分をはじくため虫は中から上ってくることができないという。SLIPS (Slippery Liquid Infused Porous Surface) と名付けられたこの表面加工はテフロン (フッ素樹脂) の細孔に潤滑性の膜を固定することで極めて摩擦係数の低い表面を作ることに成功したとのこと。また、水と油両方をはじくことのできるオムニフォビシティ (omniphobicity) という珍しい性質も備えている。

この技術を使えば、例えば原油などをパイプを通してより効率的に送ることが可能になると考えられるという。また、この表面加工を施した容器であれば、ジャムやケチャップなどの調味料も最後の一滴まで使いきることが出来るとのこと。ただしあまりに簡単に容器から出てしまうため、出過ぎてしまう危険性もあるとのことだ。

この議論は賞味期限が切れたので、アーカイブ化されています。 新たにコメントを付けることはできません。
  • 概要 (スコア:5, 参考になる)

    by phason (22006) <mail@molecularscience.jp> on 2011年11月17日 13時24分 (#2051891) 日記

    論文はまず,よく知られたロータス効果(表面に微細な突起を多数作り空気を抱え込むことで,液体をはじく)による表面加工にはいくつか弱点がある,という指摘から始まります.
    挙げられているのは例えば

    • 構造の構築に比較的コストがかかる.特に以下に示す弱点を解決しようとすればするほど,化学的&物理的に複雑な形状になりコストが増大する
    • 圧力に弱い.例えば高圧の流体を流すパイプ内にロータス効果を使った加工を施しても,高圧がかかった際に抱え込んでいる空気が圧縮され,ロータス効果が消失してしまう.
    • 空気との間での表面張力の弱い親油性液体に対しては,そもそも効果が弱い.
    • 表面に繊細な構造を作ることで発生している効果のため,傷が付きやすい上に,最近はやりの自己修復的な事もできない.

    と言った点です.そしてこれらを解決する構造として提出しているのが今回の手法になります.

    考え方はある意味非常に単純で,例えば油をはじきたいと考えたとき,水の上に1滴落とした油滴を考えると,こいつは水面の上をほとんど抵抗なくスルスルと移動できます.だからこれと同じ事を物体表面で行ってやればいい,と言うことになるわけです.

    実際の構造としては,何でも良いから微細な孔のたくさんあるポーラスな構造を持ってきます.スポンジみたいなものでも良いですし,蜂の巣のように穴がいくつも空いた構造でもかまいません(ただし当たり前ですが,これらの穴のサイズは非常に小さい必要がある).
    で,ここに,はじきたい液体と混ざらない溶液を染みこませておく,と.例えば油をはじくために,スポンジ状のコーティング剤に水を染みこませた状況を考えましょう.当然ながら,スポンジ状の物質の表面は,化学的に水と親和性の良い置換基で修飾しておく必要があります(そうしないと,穴の中に水が入らない).

    この構造は,微視的に見れば,穴がいっぱい空いてぼこぼこした構造の上に,水の膜が厚く張った状態となります.そのため,下のスポンジ状の構造が多少でこぼこしてようがなんだろうが,表面には影響がありません.従って,コーティング剤部分の作り方は多少ラフでもかまわないわけです.

    さて,このコーティング剤+水の上に,油滴を垂らします.微視的に見れば,水の膜の上に油がのっているわけですから,当然上の油ははじかれます.そのため油滴は物体の表面にくっつかず,流れ落ちることになります.
    極端な言い方をすれば,「池の上から油を垂らしても,水槽の底には油がくっつかず,水面の上を漂って流れてくだけだよね」と言うようなものです.
    水をはじきたければ,表面のスポンジ状の構造の最表面を親油性に加工して,そこに油を染みこませておけばいいわけです.水を垂らしても,油が間に入っているんで表面にはくっつかず,油膜の上を水が滑って転がっていく,と.

    水も油もはじきたい場合は,論文で行われているように,水とも通常の炭化水素類とも混じらないフロリナートのような液体を用いればOK.
    パイプラインの内張に使うのなら,輸送したい液体と混ざらないものを選ぶ必要があります.だからまあ同じ表面加工が全ての液体に対し使えるわけではありませんが,はじきたい対象さえ決まっていれば,それに応じた表面を作ることができるよ,と.

    この手法の優れている点は,

    • 表面構造は微細な穴さえあればよく,あまり細かい構造に依存しないので安く作れる.
    • 圧力下でも問題ない.
    • どんな液体に対しても,適切な表面修飾とそこに吸着させておく液体さえ選べば使用できる
    • 少々傷が付いても,単に周辺から液体が流れてきてそれを埋めるだけなので問題ない.スポンジ状の構造体に,今はやりの自己修復性ポリマーのようなものを使えば自己修復性も持たせられる.
    • スポンジ構造を作る素材とそこに染みこませる液体の屈折率を同じぐらいのものにしておけば,透明なコーティングができる(ロータス効果の場合,微細な構造&空気の界面が多数あるので,そこで散乱され白く濁る)

    などです.

    一番最後の,蟻とジャムがずり落ちてく実験って必要なのかなあ……
    いや,面白いから良いんですけど.

    • by fs0x7f (39059) on 2011年11月17日 16時04分 (#2052002) 日記

      で,ここに,はじきたい液体と混ざらない溶液を染みこませておく,と.

      って事は逆に水滴を回避する構造も出来るんですかね。
      親水性のスポンジ構造を窓ガラス表面に構築しておけば、水滴にならずに広がって視界を確保しやすくなるとかそういう奴が。
      The Telegraphの動画の一番最後に乾燥した面が出てたけど、一旦馴染んだら滴を作らずに上手く受け流してるっぽいし…
      ああでも、揮発性の液体だとダメな気がする。
      親水性の不揮発溶液…も馴染んだ後に置換されて揮発するからダメだろうし、はじく種類の加工じゃないと制限が激しそうだ。

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      • by phason (22006) <mail@molecularscience.jp> on 2011年11月17日 17時58分 (#2052035) 日記

        >親水性のスポンジ構造を窓ガラス表面に構築しておけば、水滴にならずに広がって視界を確保しやすくなるとかそういう奴が。

        そういう構造は超親水性コーティングの一種として知られておりまして,例えば水酸基(-OH)を結構持つような分子やナノ粒子からなるコーティング剤などがあります.
        #多分スポンジ状にはしなくても良い……と思います.

        こういう構造ですと,表面に突き出た多数の水酸基が水分子と非常に親和性が高いため,空気中の水分子を取り込み表面に薄い膜となっていて防汚効果があるとか,水がかかった際に薄い膜として広がるため視界を遮らない,といった特徴があり,窓材だとかそういうものに使われています.
        光が当たった際のTiO2なんかもそうですね.紫外線が当たると光励起で表面に水酸基か何かが一時的にできて,しばらくは超親水性を示すとかそんなメカニズムで.

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  • by ikotom (20155) on 2011年11月17日 11時24分 (#2051792)

    使い方が悪いんだろうけど、テフロン製のフライパンって買ってすぐは良くても
    あっという間にこびり付くようになっちゃう印象なので
    どこまでこれの耐久性があるのか疑問視してしまいます。

    まあ熱を受けたりゴシゴシ洗ったりされなければそこそこ持つのだろうけど、
    石油輸送とかのインフラに使うなら数十年単位の耐久性は必要ですよね。

  • by naima (6903) on 2011年11月17日 17時42分 (#2052032)

    この表面加工とヤモリのファンデルワールス力、どちらが勝るのか?
    何処だったか、ヤモリの足の構造をまねた粘着力の強いテープを開発してましたよね。

  • by Anonymous Coward on 2011年11月17日 11時31分 (#2051795)

    その表面加工の物理耐性・熱耐性・ケミカル耐性・経年劣化次第ではありますが。
    0.1〜数%程度は食品や薬品の使用効率が改善されると思いますし、特に洗浄するときの水の使用量が大幅に変わるでしょう。
    クリーンルームの機材や消耗品の表面加工としても使われそうな気がします。
    また、キャップの周辺が汚れにくくなるので衛生的だと思います。

  • by Anonymous Coward on 2011年11月17日 10時44分 (#2051758)

    締め付けだけで摩擦を感じないアレならホンモノを超えることができるだろうか

  • by Anonymous Coward on 2011年11月17日 10時31分 (#2051746)
    思いっきり「スーパーつるぺた」に見えたんだけど疲れてるんだろうか……
  • by Anonymous Coward on 2011年11月17日 10時40分 (#2051753)

    便器に使うとうんにょがくっつかなくなっていいかも?
    他にどんな利用法があるかなあ。

    • by bunmei (23386) on 2011年11月17日 11時01分 (#2051773)

      お笑いウルトラクイズの仕掛けに。

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    • by sumeshi0206 (12305) on 2011年11月17日 12時13分 (#2051840) 日記

      ドリフの坂

      ウォータースライダー

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    • 無水トイレに使えそうですよね。
      今の無水トイレって、ちゃっかりクサいし。

      あとは、ゴミ箱の内側とか?
      ビニール袋入れなくても、直接ガム捨てて大丈夫!みたいな。

      親コメント
      • by Anonymous Coward

        低摩擦の品は軸受けをはじめ、機械駆動のモノにはほとんど適用できますねえ。
        レールなどに使用すれば磁気や空気による浮上をしなくても物の移動が小さい力でできるし
        船の外装に使えば水との摩擦抵抗も減らせるかな。

        もっとも、耐久性とコストにもよるのでしょうが…
        テフロンのフライパンすぐダメになるんだよねえ。

        • by cudjo (2713) on 2011年11月17日 11時40分 (#2051809)

          レールに使った場合、発車時の加速と停車時の減速がえらいことになりそうです。

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        • by Dobon (7495) on 2011年11月17日 12時38分 (#2051861) 日記
          |船の外装に使えば水との摩擦抵抗も減らせるかな。
          20ノット未満で運行する、低速の貨物船では有効でしょうけど、それ以上の速度で運行する船では効果が薄いと思われます。(有効なのは潜水艦くらい?)

          一番問題になるのは耐久性だと思いますが。(多少コストが高くても耐久性があれば用途はいろいろありますが、逆は……)
          --
          notice : I ignore an anonymous contribution.
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          • by SteppingWind (2654) on 2011年11月17日 14時58分 (#2051955)

            船の流体抵抗に占める船体表面の摩擦ってのは実は非常に(無視してよいほど)少なく, 大小の渦が発生することによる圧力損失が主因ですからね. ですから流体抵抗の削減策となるともっぱら渦を制御する [geocities.jp]方向で進められていますね.

            原油などの場合は粘性が非常に高く(アスファルトの様な半固体的な物もありますし), 流れにおける層流成分が大きいので, このような表面処理が効果を発揮するのでしょう.

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          • by Anonymous Coward

            魚雷なら寿命が短くても使えそう

    • by gesaku (7381) on 2011年11月17日 12時12分 (#2051839)

      ・電線の被覆に使うと氷雪が付きにくい?
      ・パラボラアンテナに使えばレドーム不要?
      ・野球グラウンドの3塁-ホーム間に使えば豪快なヘッドスライディングが

      #校長の頭に使えば毎日見事なすだれ満月gesaku

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    • by love-m4 (10412) on 2011年11月17日 13時10分 (#2051882) 日記

      さかさまに使って台車とか。
      だだっ広くて段差のない倉庫とかなら使えるのでは?

      既出ですが・・・
      スケートリンクも思いついたけど
      ツルツルすぎると止まりにくいかなぁ、と。

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    • by Anonymous Coward on 2011年11月17日 10時55分 (#2051769)

      ・壁の塗装に使うと落書きが書けない、落ちやすい
      ・船の塗装に使うと貝がつかない
      ・スケートリンクに使うと氷がなくてもスケートできる
      ・人に使うと年をとっても水をはじくすべすべしたお肌

      以上妄想です

      親コメント
    • by Anonymous Coward

      建物の外壁など

    • by Anonymous Coward

      広告を貼られそうな電柱やガラスに使うと簡単に剥るかもしれないな。
      でも透明なガラスに使えるのか疑問だ。

    • by Anonymous Coward

      新しい遊びが生まれそうな気がしますね
      氷を使わないスケートとかどうでしょう?

      あとは交通手段に使えないですかね?

  • by Anonymous Coward on 2011年11月17日 11時13分 (#2051781)

    逆さに入れておかなくても最後まで楽に使えるようになるな。
    ヨーグルトやアイスのフタを舐める必要もなくなるな。
    魚肉ソーセージのビニルに付いたのを歯でこそげたり、
    ケーキのフィルムについたクリームを舐めたりすることも過去のお話に。

    でもコーンスープ缶の最後のコーンには勝てなそうだ。

    • by Anonymous Coward

      プッチンしないプリン、ダメな気がする・・・

      こればっかりは孫の代までプッチンさせたい。

  • by Anonymous Coward on 2011年11月17日 11時56分 (#2051821)

    どこかで見たものだと思ったら,
    Gizmodeで似たようなものが紹介されていた.
    http://www.gizmodo.jp/2011/11/iphone_333.html [gizmodo.jp]
    これもかなりすごいですけど,もっとすごいのですかね.

  • by Anonymous Coward on 2011年11月17日 12時07分 (#2051832)

    やはり耐久性が興味深い。

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Stay hungry, Stay foolish. -- Steven Paul Jobs

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