東大の研究チーム、「人工細胞」の作成に成功 17
ストーリー by reo
キャシャーンがやらねば 部門より
キャシャーンがやらねば 部門より
ある Anonymous Coward 曰く、
東京大学大学院総合文化研究科複雑系生命システム研究センターの菅原特任研究員らのグループが、人工細胞を有機化学的方法によって構築することに世界で初めて成功したそうだ (プレスリリース PDF、日本経済新聞の記事、doi:10.1038/nchem.1127より) 。
2009 年にノーベル賞生理学・医学賞を受賞したショスタックらが 2001 年に提唱した「生命活動」の要件を満たす細胞とのこと。生命活動の要件は「外界から内部を守る細胞膜 (境界) が存在し、その中に遺伝子 (情報) が存在し、さらに内部にある酵素 (触媒) が細胞を維持する代謝や細胞分裂による増殖を行う」というもので、今回作成された細胞はこれらを満たすものになるという。
同グループではすでに「境界」および「触媒」を持つ構造体の作成に成功しており、今回は単純な熱サイクルで DNA を増幅できる PCR (ポリメラーゼ連鎖反応) を用いた DNA を加えることで、生命活動の要件を満たすことに成功したという。作成された人工細胞モデルは非常に単純なものであるが、生存競争のような活動が見られた (DNA の複製がうまく行われた細胞ほど、その後の自己生産が効率的に進行した) という。
一番重要なところが抜けてる (スコア:5, 参考になる)
報道記事なんかもそうなんですが,今回の論文の一番重要な部分の説明が抜けてるんですよね.
この手の模擬原始細胞(model protocell)の研究の歴史は長く,様々なものが作られてきました.
「細胞」としての要件はまあいろいろあるのですが,
(1) 情報を運ぶ主体の増幅
(2)外界と区別する膜の増幅と分裂
の2点が重要になってきます.
1は地球上の生物で言えばDNA(ウィルスなどではRNA)の複製に当たります.2の方は細胞膜が増えて二つ以上に千切れることで数を増やす過程です.生物の場合,これらは同時に起こります(DNAが複製され,それが分配され細胞が分裂する).
さて,今までの模擬細胞では例えば,
・人工細胞膜内でDNAなどの増幅を行う系(1を満たす)
・溶液中に細胞膜の前駆体を溶かしておくと,細胞内の触媒で分解され細胞膜を作る物質に変換,細胞膜がどんどん増え,勝手に千切れて増える系(2を満たす)
などが作られています.ですがこれらの系では,1だけとか2だけが起こったり,1と2が別個に勝手に起こっているだけです.
では今回の系,何がポイントになるかというと,DNAの増幅が細胞の分裂を促進する,つまり1が2と(多少)連動している,という点です.
細胞膜の増殖自体は,溶液中の前駆体をベシクル(人工膜分子が,細胞に似た二重膜の球体を作っているもの)内に存在する触媒が分解して膜分子に変換し増えていく,と言う従来からあるものと同じです.
また情報担体の増幅も,人工細胞内のDNAポリメラーゼが原料を繋げてDNAを複製していくだけです.
さて,今回の系では,細胞膜を作っている分子内にカチオン部分が存在します.複製されたDNAが増えてくると,DNAの負に帯電した部分がこの膜分子にくっつき,その二重膜構造を崩してフレキシブルにします.すると,元々は大きな球体だったベシクルが,そのゆるんだ部分から変形してぽこっと一部が膨らんだ形となり,そのうち二つの球体へと分裂します.つまり,DNAの増幅が,細胞数の増幅をアシストするわけです.
これにより,単にベシクルの数が増えるだけではなく,また単に情報を担う物質が増えるだけでもなく,
ベシクルが巨大化する
↓
内部では情報を担う分子の数が増える
↓
情報を担う分子が十分増えると,ベシクルが分裂する(正確には,分裂しやすくなる)
↓
全体が増殖する
という,情報複製と細胞複製が連動して起きる,という事になるわけです.
#まあ,現状では,アシスト程度なんでベシクルだけでも分裂していくんですが.
人工生命なんぞへはまだまだ先が長いわけですが,今までよりまた一歩進んだよ,と.
バイオハザード (スコア:1)
このような研究では、生み出したものを厳格に隔離出来ていることを真に祈ります・・
テンプレーと (スコア:0)
人工生命だとっ!?なんだ ただの神か [google.co.jp]
妖怪人間 (スコア:0)
妖怪人間が生まれるのももうすぐですねっ!
はやく人間を作りたーい! (スコア:2)
とりあえず、原核生物を目指した研究で一歩前進という感じなので、ここからベム・ベラ・ベロに進むために越えなければならないハードルがまだいくつか。
次のステップの真核生物は、かなりハードルが高そうな気がします。地球の歴史では、最初に生命が生まれてから真核生物が誕生するまで、10億年くらいかかったのだったかな。(諸説あり)
Re: (スコア:0)
あなたの3次元の嫁をつくる研究ですよ。
Re: (スコア:0)
真面目に感想を言っただけなのだが。
何の役に立つかわからない研究になんで税金が使われるんだ?
誰か納得のいく説明しておくれよ。
Re: (スコア:0)
>何の役に立つかわからない研究になんで税金が使われるんだ?
いくつか理由はあるんだけど、例えば
1. 歴史的に、研究時にはなんの役に立つかわからないがその後様々な応用が生み出された研究があるように、一見役に立たない研究に資金を投入することによって次代の利益をがっぽり確保できる場合がある。
つまり、なんの役に立つかわからないのは我々が無知であるからであり、実際には非常に役に立つ研究である可能性が隠れている。
*ただし、本当にその後も何も生み出さない研究もあるのでこの理由をつまらない研究の良いわけにしてはならない。
2. 科学というのは人類の
Re: (スコア:0)
詳細な説明ありがとう。
3については知らなかったよ。国際社会での義務もあるんだね。
でもやっぱり釈然としないよ。
基礎研究は私財でやるべきじゃないのかな。
応用研究で資金を得て基礎研究を行うことは不可能なのかな。
不可能に挑戦するのが科学者だと思うんだ。
Re:そっか (スコア:1)
>基礎研究は私財でやるべきじゃないのかな。
なかなか難しいところで,ご存じの通り,昔(それこそニュートンあたりの時代まで)は研究というのは金持ちの趣味で,全て私費で行われていました.
その後一部の研究が膨大な富を生み始めたことから,パトロンがついて他人の金で駆動されるようになります.
そして現代に至るわけですが、最大の問題は現在における研究のほとんどにはかなりの金がかかる,という点でしょう.研究の高度化により,測定機材,物資などを揃えるだけで膨大な金額がかかるようにな,個人レベルで先端研究に追いつくことはほとんどの分野で不可能となってしまいました.
(一部出来る分野もあり,そういう分野では「個人研究家」のようなものも不可能ではない)
そんなわけで,現実的には私財で(非理論系の)基礎研究をやるのは不可能となってしまっています.
ではそういった研究に国が資金を出すべきかどうか,です.これまた難しいのですが,現在国が金を出している大きな理由の一つが,「いずれそれなりの配当を生むだろう」という期待です.つまり,資金は援助ではなく投資という見方です.雑多な役に立ちそうもない研究の中から,小数ではあっても大きな富を生むものが出てくるだろう,という期待ですね.
近代以降,基礎研究が(長い雌伏の時代の後)膨大な富を生んだ前例があるため,現状ではこの見方が正当化されています.
もちろん,今後長期間様子を見た結果,「やっぱり現代ではもう基礎研究はほとんど利益を生まないから,そんなに金出すべきではない」となる可能性はあります.
ただ,今のところ世界は,「長期的には(どこがどう回ってそうなるのかは予想がつかないけど)リターンの方が多そうだ」と判断して掛け金をbetしてる,と言う状況ですね.まあ正直,その判断の正当性は現時点では何とも言えません.もしかしたら基礎研究に金をかけるのはおっしゃる通り無駄なのかも知れませんし,そうじゃないのかも知れません.
正直この部分の正否に関しては,世の中の誰も正解がわからないので,各人が「俺はこう思う」というところから先にはなかなか議論を進められないんですよね.
もちろん過去の例を検証は出来るんですが,それが現在にも当てはまるのかは謎なわけで.
>応用研究で資金を得て基礎研究を行うことは不可能なのかな。
ごくまれにそういう方もいます.
応用研究でがっぽり稼いで,それで基礎をやってる人とか.
一方,それを社会全体でやっているのが今のシステムですね.応用研究で稼いだ金を(国が一度巻き上げて)基礎研究に部分的に投資する,という.
なにぶん研究に必要な金額が高いため,個人で回そうとすると必要な儲けがかなり膨大になるのでそこがネックです.
まあ,ある程度の規模の研究室ですと似た様な事はやっていますが……
(応用とか金の取りやすい研究で設備を整え,その後に金は取れないけど面白いと考える研究でもそれらの装置を使う,とか)
またこれらとは完全に別の視点として,学生の教育という意味では基礎研究も悪くはないかな,とも思います.
大学の役割として学生の教育があるわけですが,その教育の一つに「研究のやり方を教育する」というものがあります.その題材として,基礎研究ってのはありだなとは思います.
未熟な学生が研究するわけですから,その進捗速度はそんなに速いわけではない,だから実利に直接繋がる競争的な研究をやっても(勝ち目がないから)あまり意味はない.だったらいっそのこと,基礎研究をやっててもらう,って感じですね.
なんだろう,小学校の算数のドリルとかそんな感じで.学生は研究のしかたを学べる,そしてその副産物として基礎研究も多少は進む,とか.
#あくまで個人的な発想なので,それがベストだとか,みんながそう思ってるわけではありません.
Re: (スコア:0)
さらに詳細な説明ありがとう。
僕は子供のころ科学者になりたいって思ってたんだ。
「必要は発明の母である」
って頃の科学者に。
>応用研究で資金を得て基礎研究を行うことは不可能なのかな。
ごくまれにそういう方もいます。
こんな人になれるように頑張ることにするよ。
ありがとう。
Re: (スコア:0)
それをここで聞かれても、、、本人達が説明するべきこと。
(科学者がみんなこの研究の価値を認めているわけではないよね)
これは確かに技術としては何の役にも立ちそうにないし、科学としても微妙。少なくともこれで進化を語るのは僕にはどう考えても飛躍しすぎに思える。強いて言えば文化なんじゃないか?
Re: (スコア:0)
返信ありがとう。
確かに本人に聞くべきだね。
答えてくれるのかなぁ。
ポストヒューマンに繋がるのでは? (スコア:0)
こうした分野の研究は、将来的にポストヒューマン [wikipedia.org]なんかに繋がるものじゃないですかね?
なので、回収できそうか?・・・などというレベルではなく、研究に乗り遅れた国は、下手したら来世紀には残って無いと思いますよ。
現代の知識でも既に、赤血球を人工的に再構築すれば、運動能力を数倍に強化した人間を生み出せる、とかいう話も。
たぶん一般の人が思っているより遥かに、こうした研究の影響は大きいですよ。
Re: (スコア:0)
一般の人はそんなこと望んでるのかな。
一般の人のお金を使うなら一般の人が望んでいることをやるべきだと思うな。
Re:ポストヒューマンに繋がるのでは? (スコア:2)
一般人のお金を使うのは、税金を投入したときと、一般人が製品を購入したときです。
将来的には、購入時の金額のほうが多くなるように投資するものですよ。
#投資して物ができないとどれだけ儲かるかはわからないけどね。