福島第一原子力発電所事故の避難区域内におけるニホンイノシシと家畜ブタの交雑について、福島大学などの研究グループが研究成果を発表した(
論文、
The Register の記事)。
避難区域内では放棄された養豚場からおよそ 3 万頭のブタが逸出した。イノシシとブタの間には生殖隔離が存在しないため、交雑によりブタの遺伝子がイノシシへ流入することが懸念される。今回の研究では 2015 年から 2018 年に避難区域内または付近で捕獲された (形態学上通常のニホンイノシシとみなされる) イノシシ 191 個体の筋肉サンプルに加え、2011 年以前に茨城県・山形県・宮城県で捕獲されたイノシシ計 42 個体の筋肉サンプルと福島県内で入手したブタ 10 個体の筋肉サンプルを用いている。
これらのサンプルは同グループの研究者らによる別の研究でも過去に用いられたものだ。過去の研究 (
PDF) でも交雑個体が予想よりも少ないことが判明しているが、今回の研究でミトコンドリア DNA 解析とマイクロサテライト解析を実施した結果、交雑個体は 191 個体中 31 個体。福島第一原発から 20 km 圏内で捕獲された 149 個体中 24 個体、20 km ~ 40 km で捕獲された 24 個体中 6 個体が交雑個体だったのに対し、40 km 圏外で捕獲された 18 個体では 1 個体のみが交雑個体だった。
福島第一原発事故による急速かつ大規模な生物学的侵入イベントが発生したにもかかわらず、大規模な遺伝子流入が確認されなかった理由について、(i)イノシシの個体数が豊富だったため侵入源からの距離が増し、イノシシからブタに流入する遺伝子が増加する一方でブタからイノシシに流入する遺伝子が減少した、 (ii) 次世代の交雑種に受け継がれるブタの遺伝的遺産はブタが日本の野生環境に順応できるかどうかに依存する、という2つの仮説を研究者は提唱している。
いずれのシナリオでも流入遺伝子は最終的に消滅するが、生息域拡大に続いて人口拡散が起こるのか、自然選択が何らかの役割を担うのかを判断するため、今後の研究では交雑種の健康状態や生態的地位を評価することが推奨されるとのことだ。